「あの人にしか聞けない」は危険信号。外部人材が活きる組織は、何が違うのか

なぜ、あの人ばかり忙しいのか——。
多くの日本企業では、特定の総合職に問い合わせや調整業務が集中し、“なんでも屋”のような状態が生まれてしまっています。人材不足や個人の頑張りに起因する問題として語られがちですが、その背景には「誰が、何を、なぜ担うのか」が整理されていない、「組織の業務設計の問題」が潜んでいるのかもしれません。 人材不足が深刻化するなか、企業は社内人材だけでなく、派遣スタッフや外部専門人材、テクノロジーを組み合わせながら仕事を進める必要に迫られています。しかし、業務の目的や判断基準が曖昧なまま人を増やしても、現場の混乱は解消されません。 モルガン・スタンレーやGoogleで組織改革・人材開発に携わり、現在は多くの企業の経営支援に携わるピョートル・フェリクス・グジバチさんは、「総合職という日本特有の働き方そのものが、属人化や生産性低下を招く構造につながっている」と指摘します。 AIの進化によって業務設計のあり方が大きく変わりつつある今、企業は何を見直すべきなのか。ピョートルさんのアドバイスの先には、外部人材を真に有効活用できる組織になるためのヒントがありました。目次

ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイア・グループ株式会社 代表取締役
連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。モルガン・スタンレーを経て、Googleで人材開発、組織改革、リーダーシップマネジメントに従事。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。2022年からGA technologies社外取締役に就任。ベストセラー『NEW ELITE』他、『パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』『PLAY WORK』『世界最高のコーチ』など著書多数。ポーランド出身。
総合職が「なんでも屋」化するのは、組織が「チームではなく集団」だから
——DXやAI活用が進み、定型業務の効率化も広がっています。一方で多くの日本企業では、総合職の忙しさがあまり解消されていないようにも見えます。この背景には何があるのでしょうか。
そもそも「総合職」という役割は、おそらく日本特有のものですよね。海外にもゼネラリストやローテーション型の人材育成はあります。ただ、日本企業でいう「総合職」は、ジョブディスクリプションが曖昧なまま、幅広い調整・判断・例外対応を引き受ける存在になりやすい。そこが大きな違いです。
つまり、総合職とは「ジョブディスクリプション(職務記述書)がない人」だとも言えます。どんな役割を持ち、何を担う人なのかが曖昧なまま働いているケースも少なくありません。
これは組織のあり方にも影響しています。企業におけるチームとは本来、目的から逆算して役割を設計するもの。たとえばAIプロダクトをつくることを目的とするチームなら、AIに強い人材を募り、必要な役割を分担していくでしょう。
しかし日本企業の現場では、チームというよりも集団として動いていることが多いように感じています。この状態のまま新しいメンバーを迎えても、うまく機能しない場合があります。誰が何を担うのか、どこまで判断してよいのか、何を成果とするのかを定義されていなければ、人材を増員しても混乱は解消されないからです。

——「チーム」と「集団」の違いを教えてください。
チームには明確な目的があり、その目的を達成するための役割分担があります。
一方で集団では、その場の空気や人間関係で仕事の担い手が決まらないまま動いてしまうことがあります。「誰が何を担うのか」が曖昧なまま、本来は誰かが担うべき仕事が次々と発生していくのです。
——その結果、特定の人に仕事が集中してしまうのですね。
はい。
たとえばある企業に、自社の文脈や関係者の利害関係などを熟知しているAさんというハイパフォーマー社員がいるとしましょう。その企業では、本来なら誰もが参照できる形で整備されるべきワークフローや業務上の判断基準が曖昧なままです。そうすると「例の件、どうすればいいですか?」といった相談の大半がAさんに集まってしまいます。
つまり、業務設計の曖昧さに起因する問題を、ハイパフォーマー社員が「なんでも屋」として必死に埋め合わせしているわけです。
無意識に「自分の王国」をつくってしまう個人側の問題も
——現場でも「この状態はおかしい」と感じている人は少なくない気がします。なぜ改善されないのでしょうか。
前述のように組織の構造的な問題が影響していますが、個人に起因する問題もあるかもしれません。もっとも、問題に気付いていても、ワークフロー自体を見直す立場や権限がないために動けないこともあります。
個人側の問題を考えると、属人化には「気付かないまま陥る無意識の属人化」と「自分のポジションを守ろうとする意識的・半意識的な属人化」の2つがあります。大きな要因として考えられるのは、人の承認欲求です。
意識的なのか無意識的なのかはさておき、人は誰しも「自分は必要不可欠な存在でありたい」という感情を持っているもの。そのため、自分にしかできない仕事を持ち、それを維持するために行動してしまうのです。
ただし、これは本人だけを責める話ではありません。組織が役割や判断基準を明確にしないまま放置すると、個人が自分の領域を守ることで安心を得ようとするのは、ある意味では自然な反応でもあります。

——結果的に仕事の属人化を維持してしまうのですね。
私自身、そうした場面に遭遇したことがあるんですよ。
かつて所属していた企業でのエピソードです。私がマネジメントするチームに、同じ領域を長く担当するベテラン社員が加わりました。口癖のように「忙しい、忙しい」と言っている人でした。
私はその人の役割を理解するため、「なぜこのステップで仕事を進めているのか」「なぜこの基準なのか」などと質問したのですが、その人は自分の仕事について明確な説明ができないんです。
詳しく見ていくと、一つひとつの仕事はそこまで難しいものではありませんでした。同じ領域を長期間担当することで、知らず知らずのうちに、必要以上に仕事を複雑に見せてしまう状態に陥っていたのかもしれません。これは無意識の属人化の一例ですが、一方で意識的・半意識的に自分の「王国」を守ろうとするケースも少なくありません。
——周囲の同僚や部下からすると、その「王国」に立ち入るのは難しいでしょうね。
はい。一つの領域を長い間担当している人が、自分だけにしかわからない状態をつくって仕事を属人化させると、周囲は「あの人にしかわからないんだ」と思い込んでしまいます。
本人にとっては、自分が必要とされている感覚を維持できるわけですから、短期的には安全で居心地が良い状態でしょうね。自分にしかわからない仕事があり、周囲から頼られれば、承認欲求は満たされるでしょう。しかし長期的に見ると、本人のキャリアを見渡す上で危険な状態かもしれません。
AIの進化によって多種多様な業務が代替されるようになり、企業の経営層は、すでにAIを前提とした組織設計や人員計画を考え始めています。属人化された仕事に閉じこもっていると、いずれ気付いたときには自分のポジションがなくなっているかもしれないのです。
私はこれを、「プロフェッショナルとして自分の可能性を狭めてしまう状態」だと見ています。
Google社員が同僚からの質問に「ググってください」と返す理由
——属人化が進む背景には、日本企業特有のコミュニケーションのあり方も関係しているのでしょうか。
大いにあると思います。私が見ている限り、日本企業のコミュニケーションでは「信頼」と「役割」が混同されやすい側面があります。
Aさんは社内の文脈に精通していて、過去の経緯や社内政治も理解しています。だから信頼される。そこまでは自然なことでしょう。
しかし、その信頼の結果として「何かあればすべてAさんに聞けばいい」と役割まで固定されてしまうのには違和感があります。Aさんはもっと戦略的な仕事ができるかもしれないハイパフォーマーなのです。

——それなのに日々の問い合わせ対応や調整業務に時間を取られてしまうのはもったいないですよね。
はい。
この話題で思い出すのは、私がGoogleに入社したばかりの頃のエピソードです。社内のワークフローやルールについて知りたいと思い、同僚や部下に「これはどうなっているんですか?」と質問したところ、一言で「ググってください」と返されたんですよ。
その対応に最初は驚きましたが、よくよく考えると非常に合理的なのです。Googleでは、社内データベースやドキュメントの整備が徹底されていました。「調べればわかること」は、人に依存することなく情報を得られる設計になっていたわけです。
そうした組織では、「質問」というコミュニケーション自体がとても重要な意味を持っています。ググればわかることを確認するために人の時間を使ってはいけない。「判断が必要なこと」や「複雑な意思決定が必要なこと」のためにこそ人の時間を使うのだという認識が徹底されていました。
一方、そうした整備が進んでいない企業では、社内事情や背景を知っている人になんでも聞いてしまうケースが少なくありません。それを続けていると、ハイパフォーマーほど英雄化されていきます。
——「英雄化」について聞かせてください。
成果を出す人ほど「あの人なら解決してくれる」と周囲から期待されるでしょう。すると相談が集まるようになり、本人は断るに断れない。結果としてさらに仕事が集中していくのです。
だから私はよく、支援先の企業に「ハイパフォーマーのカレンダーを分析したほうがいい」とアドバイスしています。
その社員の予定が登録されたカレンダーを見れば、組織の問題がよくわかります。細かい調整仕事や、本来は仕組みで解決できるはずの問題が、最終的に組織で最も成果を出すハイパフォーマーのところへ流れ着いていることが多いからです。
業務設計を通じて「この役割は本当に自分たちが担うべきなのか」を問い直す
——総合職の「なんでも屋化」を防ぎ、社員を本来業務へ集中させる業務設計を進めるためには、何から手をつけるべきでしょうか。
まずはチームの目的やミッション・ビジョン・バリューを明確にすべきだと思います。その上で目的に到達するための戦略を立て、戦略を実現するためのワークフローを設計していただきたいですね。そうすれば、ワークフローを進めるための一つひとつの役割が明らかになります。
終身雇用の前提が変わりつつあるとはいえ、1社で長期間働き続ける人が多い傾向が続いています。そうした人は社外との比較機会が少なく、「これは正社員がやるべきだ」と思い込んでいるケースも少なくありません。その常識を自ら疑ってみることも必要だと思います。

——チームの業務設計を明確にすることは、外部人材を真に活用する意味でも重要だと感じました。
その通りです。「いつまでに」「何のために」「どんな基準で」一つひとつの業務を進めるのか。それらが整理されていなければ、専門スキルを持つ外部人材を迎え入れてもなかなか活躍してもらえないでしょう。
外部人材を活用するうえで大切なのは、曖昧さをその人たちに押しつけないことです。
「とりあえず来てもらえば何とかなる」では、受け入れる現場も疲弊しますし、働く人も力を発揮できません。必要なのは、業務を細かく固定することではなく、「目的」「役割」「判断基準」「相談すべきタイミング」を明確にすることです。
そこが整理されている組織では、外部人材は単なる人手不足の補充ではなく、チームの成果を高める重要なパートナーになります。
逆に言えば、外部人材が本当に活躍できている組織は、チームの目的や業務設計が整理されている組織なのです。
外部人材の活用という選択肢を生かすためにも、自分たちのチームの目的が明確になっているのか、その目的から逆算した業務設計ができているのかを改めて見直してほしいと思います。
人材不足の時代に、企業が考えるべきことは「誰かを追加すること」だけではありません。
まず問うべきなのは、いまの仕事が本当に人に依存しなければ回らない設計になっているのか。本当に正社員が担うべき仕事なのか。外部人材やテクノロジーに任せられる部分はどこなのか。そして、誰が担っても一定の品質で進められるように、目的や判断基準が共有されているのか。
「あの人にしか聞けない」をなくすことは、社員を楽にするためだけではありません。社内人材、外部人材、テクノロジーがそれぞれの強みを発揮できる組織に変わるための第一歩なのです。