桜が咲き始めた3月下旬、中目黒のImpact HUB TOKYOにて、「ワーキングマザーのキャリア支援イベント」が開催されました。4月から保育園に預ける方にとっては、復職直前にあたり、キャリアについて考えるにはよいタイミング!育児をしながら働く女性として、私(ライター栃尾江美)も参加してきました。
▶ワーキングマザーのキャリア支援イベントレポート vol.1はこちらから。
https://www.r-staffing.co.jp/engineer/entry/20160523_1
▲入り口にはおしゃれなブラックボード。いざ、行ってきます!
参加者は20~30名ほどの女性。子育て中の方だけでなく、今後のために子育てやキャリアについて考えたいという方も多く集まっていたようです。講演やトーク・セッションなどに聞き入り、意見交換で親交を深めるなど、楽しい3時間を過ごしました。今回はなんと、子ども向けのワークショップ付き託児サービスも準備されています。イベントの間、お子さんを預けられるだけでなく、新しい体験をさせてあげられる、親としてありがたいサービスです。
▲子どもの扱いに慣れた保育士が子ども向けワークショップを開催。何を作るんでしょうか?わくわく。
『「育休世代」のジレンマ』中野円佳さんの講演や、意見交換の時間も。
イベントの最初は、『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』の著者である中野円佳さんが登壇し、ワーキングマザーの現状や抱える課題を解説しました。
中野さん自身も、昨年の11月に第二子を出産し、2人の子育てをしながらジャーナリストとして活躍されているワーキングマザーです。著書の概要を解説しつつ、最近の転職市場についての所感もお話してくださいました。
「人手不足を強く感じます。私がインタビューした方の中に、転職先への採用が決まったと同時に妊娠が発覚した人がいましたが、採用が取りやめになるどころか、採用を前提にいくつかの選択肢を用意してもらえたようです。こういう事例からも、企業側の需要の高さを感じています」
▲実体験を交えながら、ワーキングマザーが抱える問題点を解説する中野円佳さん。
▲皆さん真剣に聞き入っています。講演後にはたくさんの質問も。
産休や育休のタイミングでは、条件的に不利だと思える転職活動ですが、働きたい女性にとって“人手不足”が追い風に。企業が求める人材であれば、ライフスタイルの変化は障壁になりにくくなっているのかもしれません。
その後、「ワールド・カフェ」という形式で、参加者同士の意見交換タイムがはじまりました。内容については、先行してこちらの記事に詳しく掲載しています。
人事担当者のホンネを聞けるトーク・セッション。
プログラム3つめは、企業の人事担当者によるトーク・セッション。登壇したのは、スマートフォンのゲームなどを制作する株式会社マイネットの金田幸枝さんと、レシピ検索でおなじみ、クックパッド株式会社の大嶋直子さん。お二人のお話から、進行役のサカタカツミさんが、“人事のホンネ”を探りました。
▲とても近くで話が聞けて、温度感のあるトーク・セッションです。
サカタさんがまず取り上げたのは、内閣府がホームページで公開している「女性の活躍推進企業データベース」。このサイトでは企業における女性の活躍状況に関する情報を集約していて、各企業の、「労働者に占める女性労働者の割合」や「管理職に占める女性労働者の割合」など各社最大で18の項目について数値を公開しています。
サカタカツミさん(以下、サカタ) 「政府の人たちは、『これらの数値が上がれば女性が活躍できる』と考えているようですね。お二人はどう思いますか?」
大嶋直子さん(以下、大嶋) 「クックパッドは女性のためのサービス、と銘打ってはいないものの、お料理のレシピサイトなので、やはり女性に支えられています。社内で女性管理職の割合は43%と高く、女性活躍を推進している企業として公開され、国から認めてもらうことは(女性ユーザー獲得のための)マーケティング的にも重要だと考えています。戦略としては有効ですが、これらの項目が『女性が働きやすいこと』とイコールかというと、疑問はあります」
金田幸枝さん(以下、金田) 「マイネットはスマートフォンゲームを企画・運営している会社なので、デザイン系、クリエイター系の職種があり、女性メンバーが増えています。しかし、クリエイターの中には技能を磨き、スペシャリストを目指す人も多く、管理職を目標にしていない人も多いので、女性管理職が増えたからといって『活躍している』と言ってしまうのは少し違和感がありますね」
講演の際に中野さんも「数合わせ的に女性管理職を抜擢することで周囲の不満が噴出し、『やはり女性は使えない』という結果になる可能性もある」と危惧されていました。
中にはうまく活用が進まない会社もあるかもしれませんが、日本全体で役員や管理職に女性が増え、女性の視点が経営に生かされることで、多様性のある強い社会に変わっていくのではないでしょうか。
▲マイネットでは創業期からの社員だという金田幸枝さん。人事と共に広報も担当しています。
そもそも「女性が活躍している」とはどういう状態?
サカタ 「では、『女性が活躍している』というのはどういう状態なんでしょう。そもそも、男女を分けて公表する必要があるのでしょうか。お二方は人事として、男女を分けて考えますか?目の前に『入社したいです』という人がいたとして、女性は結婚、出産などライフステージが変わると価値観が変わってしまう、と考えますか?」
金田 「採用時に性別は関係ありません。また、キャリアプランも大切ですが、より会社の価値観と合い、同じ方向を向いて一緒に走ってもらえるかどうかを見ています。女性は確かに出産、育児等でライフステージが変わることが多いかもしれませんがそれは男性も同じ、という感覚です。弊社では男性が、お付き合いをしている女性によって(働くことや仕事に対する)価値観が変わった、という経験をしたこともあり、女性だからといって何か特別に意識することはありません」
大嶋 「中途採用では特に女性の割合が高く、部署によっては女性ばかりになってしまうことも。それはそれで偏ってしまうので、男性の価値観も欲しい、というオーダーを人事として受けることはあります。また、価値観は変わって当たり前。『変わらない』と言ったらそれは嘘ですよね。人事としては、年齢が近いと出産や育児が同時期になってしまうので、配属を分けておかないと業務が滞ってしまうかもというのは考えます」
▲現在の会社の平均年齢が31歳なので、育休を取得する人が重なってしまうのが課題だという大嶋直子さん。
金田 「採用時に男女の区別はありませんが、配置の際には確かに考えます」
サカタ 「突然結婚したり、突然価値観が変わったりすることにどう対応していこうと考えていますか?」
金田 「価値観はそれほど“すぐ”には変わらないんじゃないでしょうか……。出産を機に変わる人は多いですが、早ければ妊娠3ヵ月ほどで知らせてくれます。それなら産休まで半年ありますから、会社として配属や業務などの対応を考える猶予ができます。突然なのは、妊娠ではなく介護の方ですね。親御さんが急に倒れられたとか……」
大嶋 「介護は、わざわざ会社に言わなくてもいいというフェーズが長いんだと思います。ずっと言わないでいて、急に発覚する。もう少しコミュニケーションを密にして、早めに知らせてくれるとありがたいです。『言ったら冷遇される』なんてことはないので。そこは信頼関係や、会社の力量が問われるところではあります」
会社の立場に立てば、会社に貢献してくれると思って採用した人が働けなくなることは大きな痛手となります。ところが、ひとりの人生を考えたときに、会社のために子作りを控えるというのは違和感があります。私自身も子育て中ですが、“ひとつのいのち”は何よりも大きなものとも言えます。会社と個人、どちらも犠牲になることなく、双方が相手を思いやるというバランスが大事なのかもしれません。
「制度はありますか?」より効果的な人事への相談の仕方。
サカタ 「この中で、『人事に相談しやすい』という方、いらっしゃいますか? (参加者を見て)いないですね(笑)」
▲飾らず率直な質問を投げかけるサカタカツミさん(写真左)。
金田 「人事には全てのことを決める権限があると思われているフシがあります。それは誤解で、人事配置の判断をするのはもっと上の経営者です。制度設計の起案などは人事がしますが、判断、決定はできません。だから人事へ『介護のことを相談したら異動させられる』などということはないです」
大嶋 「人事はツールだと思っています。上手に活用してもらいたいですね」
サカタ 「人事は、適宜相談に応じてくれるんですか?」
大嶋 「子どもができたときに『仕事どころじゃない』という気持ちになる人はいます。まだ経験がないので、私もそうなるかも(笑)。価値観が変わるのは仕方がないことなのでその時に相談してもらって、会社としてどんなサポートができるのか一緒に考えていきます。ただ、『こういう制度はありますか?』と聞かれると、なければ『ない』と答えるしかなくなってしまうんです」
金田 「人事に対して『制度はありますか?』『仕組みはありますか?』とう質問が非常に多く、質問の本質がつかめず、困ることがあります。新たに制度を作ろうとしても、やはり検討から準備をして、就業規則等へ盛り込もうとすると半年から1年くらいかかります。それなら、『こんな状況だけどなんとかしたい』という相談のほうが、いい解決策が見つかることもあります」
大嶋 「例えば、『そろそろ結婚を考えているパートナーが海外転勤になりそう。期間はこのくらい。その間は付いていきたいけど休職できますか?』と事前に相談してもらえれば、休職ではない方法も提案できます。決まってからでは対応できませんが、遠方でも仕事ができるような仕組みを考えられるかもしれません」
金田 「人事に話しかけづらいという人がいるようですが、チャットで『今いいですか?』と聞いたり、席の近くに来て声をかけたりしてもらえれば。また、直接言いにくければ、人事とつながりのある人に相談して伝えてもらうのもひとつ。そのためのパイプ役になるだろう人が各部署にいたりもします」
会社の規模にもよりますが、大きい会社ほど、人事に個人的な相談を持ちかけるのはためらわれるのかもしれません。私も10年前まで会社員をしていましたが、人事に相談した経験はありません。もっと気軽に相談してよかったのですね。
▲カフェのような空間で、和気あいあいとした雰囲気。お二人と進行役のサカタさんは、普段からよく情報交換をするのだそう。
会社と交渉するためには成果や覚悟が大切。
サカタ 「制度としてではなく個別に対応していると、『あの人だけ特別だよね』というような意見が出ませんか?」
大嶋 「タイミングや背景にもよりますから、『フェアじゃない』という気持ちになるのは仕方ない部分もあると思います。さらには、交渉したときに『あなたのためなら整えましょう』と言われるような関係性や働き方ができていることも大切。人事と仲良くしていればいいというわけではなく、仕事をする上での覚悟を見せてもらいたいです。家庭内でも『夫婦でこのように協力し合っている。子供が熱を出したらこういう対策をする』などと決めているということを教えてもらうと、会社としても協力しやすいですね」
金田 「決められたことをきちんとこなすのも、新しいことを生み出すのも、両方とも成果だと考えています。いずれにしても、与えられたタスクやミッションに対して成果を出してくださっているかが大事な要素にはなります」
人事への相談は、ただの悩み相談ではなく、自分からも価値を提供しなくてはいけないのですね。
女性ばかりが会社と交渉。男性側は?
サカタ 「事情は家庭でまちまちだと思いますが、子どもができたときに働き方を変えるのが女性ばかりだと、女性社員の多い会社ばかりがリスクを負うことになります。この中で、旦那さんが働き方を会社と交渉したという方いますか?」
サカタさんが会場の参加者に尋ねたところ、結果は以下の通りとなりました。
夫が会社と交渉した・・・3人
よい回答を得られた・・・うち、1人
女性が会社と交渉した・・・多数
よい回答を得られた・・・うち、全員
▲挙手による簡単なアンケートも実施しました。
大嶋 「産後、女性だけが働き方を会社と交渉しているケースが非常に多く、不公平ではないかと思います。弊社では男性が申し出るケースも出始めていますが、男女ともに働き方を見直すのが当たり前になっていくべきですよね」
金田 「弊社では、特に制度を利用しなくても子育てに協力している男性はいます。定時は10時からなのですが、8時半にお子さんを保育園へ送っているためか、定時よりも早めの9時くらいに出社しているメンバーもいます。朝に業務をする分、夕方はお風呂に入れるために定時に帰っているようです。細かい話を根掘り葉掘り聞くわけではありませんが、家庭ではそういう役割を担っているんだと見えてきます。短い時間でパフォーマンスを出す方が会社としてもよいと思っています」
さまざまな話題で話が盛り上がり、あっという間に1時間のトーク・セッションが終了。普段は聞けない人事担当者の貴重な意見が聞けて、参考になった人も多いことでしょう。すべてのことが解決するわけではありませんが、人事に相談することで、働くことを諦めずに済むかもしれないというのはよい情報です。また、その際には、自分の権利ばかり主張するのではなく、会社への貢献をきちんと伝えることで会社と上手く交渉して、育児中でも無理なく働ける環境を作っていきたいですね。
▲今回の託児サービスを請け負った株式会社ココルクの代表取締役、山下真実さん。「子育て中も自己研鑽(けんさん)をしたい。そして、子どもにとっても意味のある時間を過ごしてもらいたい。」とワークショップ付きの託児サービスを提供する思いを語りました。
▲リクルートスタッフィングの石川景太さん。短い時間で高いパフォーマンスを出せる人でも働く時間に制限があるために評価されにくくなってしまっている日本社会の現状を嘆きます。固定観念からくる抵抗感をなくし、働くお母さんがもっと活躍して欲しいと願っているそうです。
▲イベント終了後には、子ども達が制作した作品を託児ルームに展示! 人の形は、子ども達それぞれの等身大です。個性が出ていてとても素敵だと感じました。ワークショップ付きの託児サービスは本当にありがたいですね!
▶ワーキングマザーのキャリア支援イベントレポート vol.1はこちらから。
写真・土佐麻理子