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バーチャル美少女ねむさんと行くメタバース【第2回】ソーシャルVR国勢調査からわかるVR世界の意外な実態

メタバースの世界へ入りながら取材を進める試み。第2回となる今回は、案内人でもあるバーチャル美少女ねむ(通称:ねむさん)さんが、スイスの人類学者リュドミラ・ブレディキナさんとともに調査した「ソーシャルVR国勢調査2021のレポートを基にお話を伺っていきます。

今回取材したこと
・男性も女性も8割がたは「女性型アバター」を使う。その理由は?
・1回あたりソーシャルVRを何時間程度プレイしている?
・VRの世界で「落下感」を感じた人が75%もいた!

*「ソーシャルVR国勢調査2021」とは、ソーシャルVRを1年以内に5回以上使った1200名を対象に、世界的な調査をしたもの。

「ソーシャルVR」とは、ねむさんが考える「メタバースの定義」を体現していると思われるVRのプラットフォームで、VRゴーグルをかぶり、仮想世界でコミュニケーションできるサービスのこと。取材させていただく場所であるVRChatのほかに、clusterやバーチャルキャスト、Neos VRなどがあります。詳しくは本連載第1回で紹介していますのでぜひご覧ください。

バーチャル美少女ねむ さん
メタバース原住民にしてメタバース文化エバンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber。VTuberを始める方法をいち早く公開し、その後のブームに貢献した。歌手、作家など幅広く活動を展開。フランス日刊紙「リベラシオン」・朝日新聞・日本経済新聞など掲載歴多数。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。
Twitterアカウント
著書『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(2022)技術評論社

VRChatにある、空をクジラが泳ぐワールドでインタビュー

今回も取材場所は前回と同じVRChatです。ねむさんが選んでくれたのは、和室のある日本家屋と、そのまわりにぽつりぽつりと見える廃墟のような建物。かつ、膝のあたりまで水びたしになっているワールドでした。荒廃した雰囲気ではあるものの、空は爽やかに晴れていて、鳥が飛んでおり、アニメの世界にいるような気分です。

バーチャル美少女ねむ
ねむさん
ときどき、大きなクジラが飛んでくるんですよ。

クジラが見えるタイミングは、その人によるのだそうです。ねむさんと、私は同じクジラを見ているわけではないんですね。

それよりも、今回のねむさんのアバターはなんと浴衣姿!

バーチャル美少女ねむ
ねむさん
昨日、みんなで浴衣を着て集まるような夏祭りイベントがあったので、そのままの格好で来てみました。これは、ファンアートみたいに、ファンのモデラーさんが作ってくれたものなんです。それを私が公式採用させてもらって使っています。

▲クジラが空を飛ぶ世界で対談。(左)ねむさん、(右)ライター

顔も違う気がしたのはそのせいだったのですね。ファンの方が作ったファンアートを自分の体(アバター)として使えるとは、これまでは想像もしえない世界です。

また、今回は、ねむさんのご紹介でゲストの方にも来ていただきました。jumius(ゆみうす)さんと、Atree(アトリー)さん。お二方にも適宜お伺いしていきます。

jumius(ゆみうす)
大学准教授。バーチャルリアリティ・CGキャラクタ技術の研究・教育に携わる。主なテーマは触れ合えるかわいいキャラクタの実現と応用
Atree(アトリー)
主にサウンドクリエイターとして活動している。これまでの活動に、VTuber「のらきゃっと」さんの放送BGM、Nintendo Switch「PHRASEFIGHT」サウンドディレクター・作曲などがある

▲左がAtree(アトリー)さん、右がjumius(ゆみうす)さん。

「ソーシャルVR国勢調査2021」によると、女の子のアバターがおよそ8割!

前回とは違った雰囲気のねむさんに、さっそくお伺いしていきます。書籍『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』内や、noteで公開されていた「ソーシャルVR国勢調査2021」のレポートを基に、話を進めていきましょう。

ちなみに、ライターは今回から新たなアイデンティティを感じるべく、VR内の名前「emit(エミット)」として話を進めていきます。

エミット
早速なのですが、女性アバターがほとんど、というデータは意外でした。現実世界での男性も女性も、8割がたは女性アバターを使うんですね。
バーチャル美少女ねむ
ねむさん
理由を考えると、わかりやすいのはトランスジェンダーの方ですよね。自分がなりたい性別で過ごすために、アバターでそれを実現する。でも、割合としてはそれほど多くなくて、日本では6%、アメリカでも29%でした。

▲物理的な性別に関わらず、女性型アバターを使う人が8割近くにのぼることがわかった。物理的な性別と逆の性別のアバターを使う理由にはトランスジェンダーであることをあげる人もいる。
出典:「ソーシャルVR国勢調査2021」

エミット
調査によると、『アバターの外見が好みだから』という理由が一番多かったようですね。ちなみに、ねむさんはどうして美少女アバターにしたんですか?
バーチャル美少女ねむ
ねむさん
そうですねえ。現実の自分とは一番かけ離れた存在のほうが面白いかなと思ったのがきっかけですね。試してみたら意外としっくり来て、今ではこの姿で生活するのが当たり前になってしまいました。
エミット
今回ゲストのゆみうすさん、アトリーさんはどうでしょうか?
アトリーさん
かわいいからです! VRChatを4年前からプレイしているのですが、当時はそもそも男性アバターの数が少なかったんです。上半身裸の男性とか、モンスターとかしかいなくて、かわいい女の子のキャラクターに自然になったような気がします。
ゆみうすさん
私はもともとVRのキャラクターの研究をしていて、自分がなるとしたら女の子のキャラクターがいいと思っていました。性格的には現実世界でもかわいい感じにしたいのですが、私は現実の姿がそちらには向いていないので、諦めているんです。だからVRの世界ではかわいい女の子を自然と選んだんですね。

自然に女の子アバターを選ぶ、という感覚の人が多いのかもしれません。VRの世界で過ごしていると、かわいい姿を間近に見ることになります。つい「自分もなってみたい」と思いますが、もしかしたらしっくりこないかもしれません。いろいろなアバターを試してみて、自分になじむ姿を選べるのもVRの世界の良さですね。

フルトラ&長時間プレイの人が多い!

エミット
腰や足にもトラッキング用のセンサーを付ける『フルトラ(フルトラッキング)』で、全身をコントロールしている人が多かったり、長時間プレイしている人が多いのも『すごい!』と思いました。今すでに、そんな世界が広がっているのですね。
バーチャル美少女ねむ
ねむさん
今のメタバースって、まだまだ気軽に楽しめる世界ではないので、正直『ハマっている人が残っている』という側面もあると思いますね。フルトラは、VRの世界に全身で入れる感覚があるし、アバターの体と一体になって違う自分になりたい欲求なんじゃないかと思います。アニメキャラみたいに可愛らしい動きをする『かわいいムーブ』という動きがあって、そのために体中にセンサーを付けるという感じ。プレイ時間も長くて、半分くらいの人がほぼ毎日3時間以上こちらの世界にいるんですよね。
ゆみうすさん
私もフルトラです。かわいくなりたい気持ちが強くて……。腰を動せるとすごくかわいさが増すんですね。もうひとつは、自分の足が動いて見えたりすると、『自分の体なんだな』という実感が強まります。
アトリーさん
実は今、引っ越しで環境がなくなってしまって3点トラッキング(頭と両手)なのですが、以前はフルトラでした。やっぱりフルトラだと楽しいですよ。

▲「ゆらゆらと腰を横に動かせるとかわいいんです」と実際に『かわいいムーブ』を見せてくださるゆみうすさん。

エミット
ねむさんはVRの世界にいるほうが長いくらいだとおっしゃっていましたが、お2人も、長時間プレイしていますか?
ゆみうすさん
以前は週に3~4日ほど、1回につき5~6時間いることもあったのですが、4月から現実世界の職場が変わって忙しくなってしまって、週に1回は入れるかどうかです。ただ、入れるときには8時間くらいいたりします。
アトリーさん
平日は週に3回くらいで、だいたい1回につき1時間。ただ、翌日が休みの日には午前2時か3時くらいまで、タガが外れたように話します。あと、VR睡眠をすることもあります。寝転がりながらお話をしていると、気づいたら寝ていて、朝になっていたりするんですよね。

*VR睡眠:VRゴーグルをかぶったままメタバースの世界で皆で一緒に眠る行為のこと。メタバース住人の中ではメジャーな行為のひとつ。

エミット
現実世界ではその辺で寝るのは危ないですが、VRなら気軽にできますね。

▲サービス・地域別のソーシャルVRの利用頻度/利用時間の調査結果。8割近くの人は3時間未満のプレイ時間であることからも、ゆみうすさんとアトリーさんは特にアクティブな「原住民」だといえそうだ。
出典:「ソーシャルVR国勢調査2021」

女性もボイスチェンジャーで声を変える?

エミット
ねむさんが調査結果を見て意外だったことはありますか?
バーチャル美少女ねむ
ねむさん
私は自分の声をボイスチェンジャーで女性の声にしていて、私と同じような人が一定数いることはわかっていました。そこで、調査では理由として『男声を女声に変換するため』という選択肢を入れていたのですが、それを『現実世界で女性である人』も選んでいたのが意外でした。現実世界よりもかわいい声、アニメキャラのような声でしゃべりたいという欲求があるのかなと思いました。
エミット
そう言えば私も、1回目の取材の動画を見返したとき、自分の声がねむさんの声より太くてがっかりしました!

自分の声はどう考えても女性の声なのに、もっとかわいい「アニメのような声にしたい!」と思うのは自分でも意外でした! そのほうが、世界観に合っていると感じるのでしょうか?

エミット
ゆみうすさんはボイスチェンジャーを使っていて、アトリーさんはそのままの声ですよね?
ゆみうすさん
アバターと同じで、かわいい女の子キャラになりたいのと、自分の姿と声を一致させたい気持ちがあります。ヘッドフォンでボイスチェンジャー後の声をリアルタイムでフィードバックしていて、もともとの声はほぼ聞こえないんです。
バーチャル美少女ねむ
ねむさん
補足すると、ボイスチェンジャーだけで声を変えている私と違ってゆみうすさんはほとんどボイストレーニングによる筋肉で声を変えていて、ボイスチェンジャーは最後の仕上げに使っている感じですね。
アトリーさん
私の場合、最初は自分の声が好きではなくて、音声読み上げソフトを使ったり、ボイスチェンジャーを使っていました。でも、話しているうちに自分の声が気にならなくなりました。この容姿で男性の声でも何も言われないので、じゃあこのままでいいや、と。
バーチャル美少女ねむ
ねむさん
音声の変換はアバターと違って非常に難易度が高いので、できる人が少ないです。メタバースの世界が当たり前になるにつれ、女性アバターから男性の声がする、というのも徐々に普通のこととして受け入れられるようになってきていますね。

▲ねむさん曰く、ゆみうすさんの声はほぼ筋肉によるもので、さらなる高みを目指すためにボイスチェンジャーを使っているのだとか。アトリーさんは、もともとは女性の声で話したかったものの、少しずつ気にならなくなってきた。

そのほかに、ねむさんが意外だったのは「ファントムセンス」を感じているユーザーが非常に多かったこと。VRの世界で物や人に触れると、自分の体が実際に触れたように感じることを指します。選択肢の中では、「落下感」を感じた人が7割以上と最も多く、他に「触られたくすぐったさなどの感覚」を体感した人が5割もいました。

▲「ファントムセンス」に関する調査結果。落下感の他にも吐息や温度を感じる人もいる。
出典:「ソーシャルVR国勢調査2021」

▲エミットの顔に触れてみるねむさん。ドキッとした。

この世界で、もっと長い時間を過ごしたい

最後に、今回のゲスト、ゆみうすさんとアトリーさんに今後のことをお伺いしてみました。

ゆみうすさん
普段からここにいて、楽しい暮らしを送っていきたいです。人と集まるって現実世界では大変だけど、VRの世界なら1時間も空けば、『10人で会いましょう』と集まれます。会っているときの満足感は対面と近くて、とても素敵なことだと思っています。
アトリーさん
いろいろなことがしたいです。旅行したり、遠くに住んでいる人と同じ景色を見たり、いろんな感覚を共有したいです。また、僕は音楽も作るので、音楽仲間といろんな話をしてみたい。やりたいことは山ほどあって時間が足りないです。

「この世界にずっといたい」という気持ちは、わかるような気がします。きれいな景色を見たり、自分が違う姿になっていろいろな人と話したりする、空想や物語の世界のようです。ねむさんのガイドのおかげもあり、これまでの体験でとても居心地がよいと感じています。

前回と今回の取材を終えてみて驚いたのは、VRの世界にいたときの景色や、ねむさん、ゆみうすさん、アトリーさんの表情、しぐさ、お話の内容などが、ずっと頭の中でリフレインされることでした。Zoomで話したり、映画を観たりするだけでは感じないほどのリアリティがそこにあるからでしょう。VRの世界を夢に見る人も多いのだそうです。言葉では表せないものを、身体が感じているのかもしれません。

・・・

今回は、VRのワールドで夢見心地を味わいながら、メタバースで過ごす人たちのデータを見てきました。
次回は、メタバースで作られる、現実世界とは違うアイデンティティについて、引き続きねむさんにお伺いしていきます!

▼これまでのバーチャル美少女ねむさんと行くメタバース
【第1回】VRの世界に潜入してみた

聞き手・ライター:栃尾 江美(とちお えみ)