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バーチャル美少女ねむさんと行くメタバース【第3回】VR内では別人になれる?自分の中に眠るアイデンティティの謎に迫る!

ライターがメタバースの世界に入り、メタバースを実際に体験しながら取材を進める本連載。第3回もバーチャル美少女ねむ(通称:ねむさん)さんと一緒に、メタバースの中で感じる「自分とは?」「アバターに変わった瞬間、別の自分を演じているのか?」などのアイデンティティについて伺っていきます。

バーチャル美少女ねむ さん
メタバース原住民にしてメタバース文化エバンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber。VTuberを始める方法をいち早く公開し、その後のブームに貢献した。歌手、作家など幅広く活動を展開。フランス日刊紙「リベラシオン」・朝日新聞・日本経済新聞など掲載歴多数。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。
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著書『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(2022)技術評論社

ねむさん自身、メタバースの世界と現実の世界では、別のアンデンティティを持つ、と著書『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』の中で説明しています。ねむさんが考えるメタバース内でのアイデンティティについて、今回もVRChat内でお伺いしていきます。

前回インタビューしたゆみうすさんとアトリーさんにもお付き合いいただきました!

▲前回の取材時の様子(左からアトリーさん、ライター・エミット、ねむさん、ゆみうすさん)

いろいろなアバターを試着できる「アバターミュージアム」へ

今回は、アイデンティティの取材をするため、VRChat内の「アバターミュージアム」というワールドへ連れて行ってもらいました。

バーチャル美少女ねむ
ねむさん
いろいろなアバターが展示してあり、試着したり、購入したりできます

それまで自分が着ているアバターが、ねむさんの「美少女」に対して物足りないと思っていたので、「着てみたい!」という思いが強まります。

現実世界の洋服の試着では、「自分に似合わないんじゃないか」「手持ちの服と合わせられないんじゃないか」など気になってしまいますが、アバターは現実世界の体型などを気にしなくていいので思いきり冒険できそうです。

試着のみだと思っていたアバターが、なんと0円で販売されていました。この場限りの試着ではなく、自分のアバターとして使うことができるそう。目に見える自分の手の様子も、長い爪のような形から、人の手のようになったので気分が上がりました。

▲別のアバターに変わる瞬間。せっかくなので、変身後の姿のままいることに。

4人全員で同じアバターを着てみて、みんな同じ格好になったのは不思議な感覚。その後、ゆみうすさんとアトリーさんは別のアバターを試着しはじめました。

アバターの統一規格とは? 別の場所でも自分のアバターが使える

ねむさんの著書に、「VRM」というアバターの統一規格が紹介されています。特定のプラットフォームに依存しないファイル形式を、日本の株式会社ドワンゴが公開したのだそうです。

ねむさん
「例えば、JPEGというファイル形式の画像や、MP4の動画って、WindowsでもMacでも同じように使えますよね。同じように、アバターのために作られたファイル形式が、統一規格であるVRMなんです。『バーチャル美少女ねむ.vrm』というようなファイルがあり、それをドラッグアンドドロップするとどのサービスでも使えるようになる、というイメージ」

▲VRoid Studioというツールで、手軽に3Dモデリングができる。
出典:バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論(技術評論社)』

エミット
「そんなに簡単にオリジナルのアバターを使えるんですね!」

ねむさん
「ただし、いま話しているVRChatはVRMに対応していないので、Unityというゲーム開発などに使われるプログラミング言語を使わなくてはならず手間がかかります。clusterやVirtual Castといった日本発のサービスはVRMに対応しているので、自分のアバターをすぐに使えます」

エミット
「統一規格が広まっていけば、どの場所に行っても自分のアバターが使えるんですね。オリジナルのものを作りたくなってきました」

ねむさん
「私のケースでいうと、今の姿は、大好きな漫画家さんであるホタテユウキ先生にデザインしてもらったもの。それをもとに、モデラーさんにVRMのアバターを作ってもらったんです。衣装だけではなく、自分の顔や体をデザインしてもらい、バーチャルの世界に入ってその外見で生活できる。それってすごいことだと思いませんか」

自分の姿かたちをゼロから作れるとしたらどんなものにするか……。夢のような話に聞こえますが、これがメタバースの世界。考えてみるだけでワクワクしますね。

▲ねむさんのアバターのデザイン。漫画家ホタテユウキ先生のイラストがモデラーによってアバター化された

アイデンティティはアバターと声と名前の3要素で作られる?

まったく別の姿になったメタバースの世界では、現実の世界と別のアイデンティティが形成されるそうです。現実世界とリンクさせずに別名で活動している人も多く、ねむさんもそのひとり。

ねむさん
「アバターと声、名前の3つの組み合わせでキャラクターができると思うんです。まず、VRChatでは名前が頭の上に表示されるのですごく大事。『私はこういうものです』という説明が要らないんですね。特に私の場合は『バーチャル美少女ねむ』と書いてありますから、『バーチャルな美少女なんですね』とわかります。さらに、自分自身にとっても『バーチャル美少女ねむさん』と呼ばれた瞬間に、『そうか、私は美少女ねむなんだ』って認識していくんですよ」

エミット
「相手に呼ばれることによって、違う自分になっていくんでしょうか」

ねむさん
「違う自分が『引き出される』という感覚かもしれません。エミットさんも、以前の取材は栃尾さんでしたが今日は“エミット”で表示されているので、呼びかけやすくなりました」

バーチャルの世界で「栃尾さん」と呼ばれると現実世界に引き戻されるようで寂しかったのですが、「エミットさん」と呼ばれるとそのままバーチャルな世界観に浸れる感覚があります。

▲「バーチャル美少女ねむ」というディスプレイネームを呼ばれることで、自分を「美少女ねむ」だと認識していくという。(左:ねむさん、右:新しいアバターを着たライター・エミット)

エミット
「声も変えたらもっと気分が変わるんでしょうね」

ねむさん
「技術的に難しいため、まだハードルがあるのですが、声を変えると大きなインパクトがあります。私が『バーチャル美少女ねむ』に切り替わるのは、ボイスチェンジャーのスイッチを入れた瞬間。例えば、ラジオなど電話で出演することもあるのですが、その場合はアバターを使わずに声だけが変わるわけです。でも、もう自分の中では切り替わっています。ボイスチェンジャーが人格を切り替える心のスイッチになっている訳です」

エミット
「『ねむさん』というキャラクターは、現実世界とは全くの別人ですか? 演じているという感覚なんでしょうか?」

ねむさん
「演じようという意識はあまりなかった気がしますが、今は完全に別人格になっていますね」

エミット
「それはどうやって形成されていくのでしょうか?」

ねむさん
「こういうキャラクターになりたい、というイメージもありますが、他の人と接していく中で自分の中に生まれた新しいキャラクターが研ぎ澄まされていくんです。『ねむちゃん』と呼ばれて、かわいがられていくのを繰り返していくうちに、深みにはまっていく感覚です。性格的には、現実世界の自分よりも好奇心旺盛になっています。現実の自分では、とうていやらないことにチャレンジしています」

エミット
「プロモーションビデオを作ったり、本を出したり」

ねむさん
「そう。現実世界では想像もしていなかったことですね。よくする例えとしては、現実世界でも普段着のときと、パジャマを着たとき、フォーマルな服を着ているときでは言動や立ち居振る舞いが変わったりしますよね。それと似たようなもので、すべて自分だけど、人格が違うんです」

複数のアイデンティティを持つとよいこと/困ること

エミット
「バーチャルの世界で別人格を持てると、どんないいことがありますか?」

ねむさん
「人生を自由にデザインできるようになるのはいいことだと思います。新しい可能性を見つけてもいいし、だらける自分を発見してもいい。現実世界だけだと、年齢とともに『自分ってこんなもんだな』といった限界のようなものが見えてきますよね。でも、バーチャルの世界ではそれをなかったことにして全部作り変えられる。現実世界が嫌になったわけではないですが、ぶっちゃけるとマンネリ化していた部分はあったと思います」

人生50年から、人生100年へと人間は長生きになり、確かに同じ自分でいるには長すぎるのかもしれません。

ねむさん
「自分が立体的に見られるようになって、自分のことをもっと好きになれたという感覚ですね」

エミット
「複数のアイデンティティを持つことにデメリットはありますか?」

ねむさん
「それはありますよ。1日が24時間しかないというのは変えられない事実なので。私の場合、昼間は現実世界の人格、夜はメタバース、とバランスがとれていますが、これより増えると時間が足りなくなるんじゃないかな。やはり、その人格と一緒に過ごしている時間が大事だと思っています」

とはいえ、ねむさんももう一つ別のメタバース人格をもっているのだそう。

ねむさん
「メタバース界では有名になってしまったので、人に知られていない人格として過ごしたいときに、別のキャラクターになることもあります。同じ感覚で、名前が世間に知られている有名人の方から相談されることもあるんです。その方たちって、どこにいても気が休まらないから、『一般人として過ごしたい』という気持ちがあって、メタバースにそれ求めているみたいです」

▲「意外な自分を見つけることができたので、前より自分が好きになった」と語るねむさん。

相手の肩書や年齢がわからない世界でのコミュニケーション

メタバースの世界では、自分だけではなく、自分以外の人のキャラクターの捉え方も変わってくるといいます。

ねむさん
「喋っている相手の肩書や年齢、性別すらわからないんです。現実世界だと、年齢や肩書があまりにも違うと仲良くなりにくいと思うのですが、そういうハードルがない。すごい人だなと思って尊敬していたら自分より年下だったり、女の子同士のキャラクターで『○○ちゃん』と呼び合って仲良くしていたらすごい年上の方だったりします」

エミット
「距離が近いのもありますよね。すごく顔を近づけて話しても抵抗感がない」

ねむさん
「現実でこんなに近づいて話すなんてないですよね。友だちが作りやすいと思いますよ」

後ろにいるゆみうすさんとアトリーさんを振り返ると、同じアバターを試着し、ぴったりと接近して話し込んでいる様子。これまで面識がなかったとは思えないほど仲がよさそうに見えます。

▲インタビューをしている後ろで仲良くしているゆみうすさんとアトリーさん。

メタバースの世界では、肩書や年齢、性別に関係のない関係性が自然と成り立っているのでしょう。ねむさんやゆみうすさん、アトリーさんの「少し敬語で少しタメ口」という話し方も、この世界だからこその自然の成り行きなのかもしれません。

その後、自分の姿が見えるように鏡の前に移動し、ねむさんや、アバターを試着したままのゆみうすさん、アトリーさんと少し雑談。お二人のアバターが変わっても、話しているとそれぞれのキャラクターはそのままのような気がします。やはり、アイデンティティは周囲の人とのやり取りで育っていくものなのでしょう。

・・・

今回は、新しいアバターに着替えて、メタバースで変容するアイデンティティについて伺いました。次回は、メタバースと未来のお仕事について。最終回となる次回も引き続き、VRゴーグルを装着して、メタバースの世界でねむさんに取材したいと思います。

メタバースはエンジニアにも浸透しているのか?!

そして最後に、「エンジニアスタイル読者のVR実態調査!」と題しまして、VRやメタバースと本連載に関する読者アンケートを実施いたします。3分ほどのアンケートです。皆さまの力をお貸しいただけますとうれしいです!

(追記:回答受付を終了いたしました。たくさんのご回答ありがとうございました。)

▼これまでのバーチャル美少女ねむさんと行くメタバース
【第1回】VRの世界に潜入してみた
【第2回】メタバースを大調査!「VR国勢調査2021」からわかるVRの意外な事実とは!?

聞き手・ライター:栃尾 江美(とちお えみ)
(VRChatディスプレイネーム:エミット)