あなたは、プロのバスケットボールの試合をご覧になったことがあるだろうか。熱気と声援溢れる会場、目まぐるしく動く試合展開——。他のスポーツとはまた違った雰囲気に、圧倒される。そういった試合は、選手の努力はもちろん、裏から支える立役者がいるものだ。昨シーズン、バスケットボールのプロリーグであるBリーグで初優勝を果たしたアルバルク東京。競技運営の面から支える細谷茉生さんは、「裏方は私らしい」と語る。

アルバイト時代の経験が活き、学生の憧れの存在になるまで

細谷さんの仕事は、アルバルク東京のフロントスタッフ。試合があるオンシーズンは、ホームゲームの運営責任者として、20名ほどの運営会社やアルバイトの方を束ね、試合前日や当日の準備、会場運営を行う。限られた時間で現場をうまく回すために、細谷さんが気遣うほんの些細なこと。それは、アルバイトの方も含め、できるだけスタッフの名前を憶えることだ。

「実は私は、前にアルバイトとしてこの仕事をしていました。当時、名前を憶えてもらったことなど、些細なことでも、自分がしてもらって嬉しかったことは、意識して行っていますね」

そんな細谷さんの行動は、アルバイトの方はもちろん、インターンシップで来る学生から「細谷さんみたいなカッコイイ女性になりたい」と憧れの的。学生から、裏では「神様」と呼ばれていることを同僚から聞いたときは、そんな大げさな…と少し恥ずかしそうにしていた。

最初は家が近かったから。でも気づいたらバスケが好きに

5歳から20歳くらいまでクラシックバレエをしていたこともあり、将来はクラシックバレエに携わる仕事をしたいとぼんやり考えていた。高校卒業後、たまたま家の近くの競技場だからと、試合会場の運営アルバイトを始めた。そのまま就職し、サッカーやバスケットボールの試合会場の運営に、本格的に携わるようになる。

「その職場には、無線機2つ付けて、さらに電話にも出る、すごい先輩がいたんです。この人みたいになりたいと思うようになってから、アルバイトの方への接し方やお客さまに喜んでもらうにはどうしたらいいかとか、考えるようになりましたね」

前職で関わったアルバイトの方からはとても慕われていて、今でも連絡をもらってご飯に行くという。そんな活躍を見たアルバルク東京のスタッフから、今の仕事に誘われた。

バスケットボールは経験したこともなく、当初はさほど興味はなかった。しかし運営の仕事で試合を目の前で見たときに、その試合展開の速さや、他のスポーツにはない独特の雰囲気に圧倒され、気づいたらすっかりハマっていた。もっと近くで携わってみたい——そんな想いもあり、2016年7月、アルバルク東京へ転職する。

プロのクラブになってから、より選手を近くで見てきた

これまではあくまで試合会場の運営を行う仕事。クラブに所属して、これまでの仕事がほんの一部であったことを思い知ったという。オフシーズンでも、試合会場を押さえたり、対戦クラブと連絡を取ったりと業務は幅広い。

加えて、細谷さんがクラブに加わったのは、バスケットボール界のリーグ統一があったとき。アルバルク東京もアマチュアからプロのクラブに変わったタイミングだった。

「皆がてんやわんやだったこともあり、失敗談なんて、もう数え切れないです(笑)。お客さまにチケットを買って試合に見にきてもらう、そんなプロの世界ならではの変化も感じましたね」

加入後初のクラブのシーズン成績は、ベスト4。その後ヘッドコーチや選手の入れ替えもあり、翌シーズンは本格的に優勝を意識してチームが動き出した。普段はホームゲーム担当として会場設営やお客さまの対応に携わるが、アウェーでの試合も担当し、選手のケアも。勝っても負けても、選手にはいつも通りの声掛けをする。怪我などで、なかなか選手が全員揃う機会がなかった。そんな苦労も、より近くで見て、支えてきた。

悲願の優勝。でもそれ以上に大事なのはお客さまが楽しむこと

2018年5月26日。決勝試合の日は、とにかく忙しく、走りまわっていたと振り返る。

「普段と違い試合運営はリーグが行うのですが、やたら忙しくて、試合の様子は後日ビデオで観たんです。優勝が決まったときですか?急いで選手にTシャツやタオルを配ったりと、意外と冷静でしたね。でも、自然と涙は出てきました(笑)」

その後も様々な対応が重なり、1週間くらいは優勝の余韻に浸る余裕もなかった。取材をしたのは6月末日だったが、まだ実感がわかないという。その理由は、結果よりもイチから会場を作り上げることや、お客さまが怪我などトラブルなく、無事に楽しんでいただくことが、細谷さんにとっては、なにより大事だから。

「どんなに忙しくて走り回っていても、会場でお客さまと会話をするとき、必ずしゃがんで目線を下げることを心掛けています。マニュアルとかではないんですが、お客さまより目線が高いのが気持ち悪くって。もてなされているとか、そんなこと思ってもらわなくていいんです。ただ、選手を見て、試合を楽しんでもらえたら、それが一番嬉しいです」

取材当日は長い髪を下ろして、クールな女性の印象だった細谷さん。しかし普段は半袖のTシャツを肩までまくり、腕には養生テープや輪ゴムをつけ、無線機で指示をしながら化粧が落ちるほど会場を走り回る。自分のことをガテン系みたいと話す彼女に、仕事は大変かと聞くと、「じっとしていられない性格なので、忙しくても早くシーズンが始まってほしいです」と笑顔。

どんな舞台にも、裏方として支える人がいる。そのことを、私たちは時折忘れてしまっているかもしれない。細谷さんの話を聞きながら、普段、自分自身を支えてくれる人たちの顔が、頭に浮かんだ。

アルバルク東京
フロントスタッフ 細谷茉生さん
アルバルク東京は、日本の男子プロバスケットボールのトップリーグである「B.LEAGUE(Bリーグ)」に所属するプロバスケットボールクラブで、トヨタアルバルク東京株式会社が運営する。2018年、Bリーグ初優勝を果たす。細谷茉生さんは2016年7月に加入。ホームゲームのフロントスタッフとして、アリーナ立川立飛と駒沢オリンピック公園総合運動場体育館の競技運営を行う。

ライター:伊集院 妃芳(いじゅういん ひめか)
カメラマン:坂脇 卓也(さかわき たくや)
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