コロナ禍で、情報が錯綜して混乱したり、マスク着用やアルコール消毒を行うようになったりと、私たちの生活にも変化がありました。この状況下になって改めて、じっくりと自分の頭で物事を考え、自分なりの答えを出すこと、いわゆる「クリティカル・シンキング」の大切さを感じます。とはいえ、忙しい日々のなかで、思考法を学ぶのは至難なこと。そこでこのコラムでは、自分で考える力を日常生活のなかで養うための、ちょっとしたヒントをお届けします。

コラム執筆:狩野 みきさん

慶應義塾大学、東京藝術大学、ビジネス・ブレークスルー大学講師。考える力イニシアティブ THINK-AID 主宰、子どもの考える力教育推進委員会代表。慶應義塾大学大学院博士課程修了。20年以上にわたって大学等で考える力・伝える力、英語を教える。著書に『世界のエリートが学んできた「自分で考える力」の授業』『ハーバード・スタンフォード流「自分で考える力」を引き出す練習帳』(PHP研究所)『プログレッシブ英和中辞典』第5版(小学館)など多数。TEDトーク “It’s Thinking Time”(英文)。二児の母。

当たり前だったあらゆることができなくなって、私たちは当たり前の大切さをひどく実感した気がします。けれども、自分にとっては当たり前のことを、「当たり前じゃない」と感じる人は必ずいることに気づけているでしょうか。今回は、相手の立場を想像することと、その結果どんないいことがあるか、という話です。

3月の少し寒さが残るころ、郵便局へ行き、前の人と2メートルほど距離をあけて並んでいました。その場所は、立つとちょうど自動ドアが開いた状態になり、換気もよくできたのです。しばらくすると私の後ろに女性が並んだのですが、彼女はとても怪訝そうな顔をします。「ここに立つと、距離も保てるし、換気もできるので」と説明したのですが、ますます表情は硬くなるばかり。私の後ろにピタッと張り付くかのように並んでいました。

さて、「彼女は何もわかっていない!」と思う前に、考えてほしいのです。その女性はなぜ、怪訝そうな顔をしたのでしょうか。

たとえばこの女性はひどく寒がりで、換気が良い場所だと体調が悪くなったのかもしれません。あるいは、距離を置くこと、換気をよくすること、という情報を知らなかったのかもしれません。ひと呼吸置いて、相手の立場で考えてみると、自分にとっての当たり前が、相手にとっては不快だったり、伝わっていなかったことに気づくことができます。

自分自身に余裕がないと、気持ちがささくれ立ってしまいがちです。メディアや他人の行動を見て、ついつい批判してしまうこともあるかもしれません。けれども怒りは何の解決にもなりません。大切なのは、「自分はどう動くべきか」を自分でしっかり考えることです。

「自分で考える」と聞くと、難しいイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。大事なのはまず、「自分はこう思う、なぜなら…」と理由をしっかり考えることです。何も小難しいことじゃなくていいのです。今夜のおかずは何にしようか、スーパーには何時に行こうかなど、日々の行動を、理由と一緒に考えてみます。

たとえば、「今夜は鶏肉にしよう、なぜなら、安いし、美味しそうなレシピを見つけたから」という感じです。ほら、難しくないでしょう。

そして、大事なのはこのあとです。

理由を考えたら、次に、「私のこの考えに反対する人はいないかな?」と考えます。そして、反対する人は何て言うかな?と想像しましょう。たとえば、夫から「鶏じゃなくて魚がいい。魚は久しく食べてないじゃないか」と言われるかもしれません。

相手の立場を考えずにひたすら「私は鶏肉がいい」と言うのと、夫の言い分を考えた上で「やはり鶏肉がいい」と考えるのとでは、自分の中での腹落ち感も違ってきます。「相手の立場を考える」という手間をかけた分、自分の考えに自信が持てるのです。

そして、相手の言い分を想像すると、少しやさしくなれます。イラッとした時はぜひ、「この人は何でこんなことをするのかな」と考えてみてください。習慣化することで、いざ「自分で考える」ときに、自分以外の立場を想像しやすくなりますよ。

「寛容」という言葉がなりをひそめているように感じるこの頃。考える力を養いながら、同時にやさしさも手に入れられたらいいな、と思い続けています。

SPECIAL SITE
ABOUT

あなた「らしさ」を応援したいWorkstyle Makerリクルートスタッフィングが運営する
オンラインマガジンです。

JOB PICKUPお仕事ピックアップ

リクルートスタッフィングでは高時給・時短・紹介予定派遣など様々なスタイルの派遣求人をあつかっています

Workstyle Maker

『「らしさ」の数だけ、働き方がある社会』をつくるため、「Workstyle Maker」として働き方そのものを生み出せる企業になることを目指しています。