IT関連会社のヘルプデスクとして勤務する大野奈緒さん(45)。あることをきっかけに、自分の性別に対する違和感が明確になり、男性から女性に性別を変える「性転換手術」を受けた。性別変更に加え、年齢や仕事の経験も重ねてきたからこそ、考え方が変わってきたという。これまでに乗り越えてきたことや、これからのキャリアについてうかがった。

*今回はオンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人より提供いただきました

ぬいぐるみがほしい、と子どもの頃は正直に言えなかった

32歳になるまで、「性転換手術をしたい」と考えたことすらなかったという大野さん。小学生の頃はサッカーや野球をしたり、悪ふざけをして走ったりしていたが、正直楽しいとは思えなかった。誰がどの「女の子」を好きかといった類の会話になっても興味が沸かず、適当に相槌を打って流していた。

その一方で、誰がどんな「男の子」が好きかと言った会話には、ワクワクした。少女漫画を読んだり、親戚の家で人形遊びやママゴトをしている時間は心が弾む。本当は“ぬいぐるみ”が欲しかったけれど、子ども心に「男の子だから」と言えないでいたという。

大人になっても男性でいる自分を疑わなかった。恋愛経験について聞いてみると、大野さんが22歳の頃、一度だけ付き合った女性がいたという。

「上司から、君のことを気に入っている女性がいるからと紹介されて、何となく交際するような流れになりました。彼女はいい子だったし一緒にいると楽しかったのですが、恋愛感情というより友人として見ていたのかもしれません」

しかし、自分が男性として見られることに気持ち悪さを感じてしまったという。自分でもなぜこんな感情になってしまうのか処理しきれず、ちゃんとした説明もできずに半年程度で別れてしまった。

転職を決めた頃に、性転換手術を決意

大野さんが性別を変えたいと思ったきっかけは、2011年に起きた東日本大震災の影響が大きいという。震災関連のニュースを見ていると、寂しさや不安定な心理状態からか、例年以上に恋愛や結婚に発展するカップルの数が増えたというニュースを見た。何となく気になって「恋愛」や「結婚」のワードで検索していくと、たまたま「女性ホルモン」や「性転換手術」といった記事にたどり着いたという。

「震災をきっかけに内省するようになったんです。本当はどう生きたいのか、どんなことに違和感を感じ、何を我慢しているのか…。自問自答した先に行きついた気持ちは、女性として生きたい。次第に性転換手術を本格的に考えるようになりました」

最終的に手術を決意したのは、別の会社から引き抜きにあい、転職を決めた頃だった。転職先の上司には性転換手術を受けることを伝えると驚かれたものの、理解を示してくれた。元々在籍していた会社からは距離を置かれてしまい、予定よりも早く退職することになったという。

いろいろな考え方があっていい。正解も不正解もない

2015年に性転換手術を受け、翌年には裁判所で性別変更を認定。名前も新しく変えた。銀行に書類などを申請すると、性別変更は初めてのケースだったそうで、一つ一つのシステムやマニュアルなど、手探りで作り上げていったそうだ。ちなみに大野さんがきっかけとなり、今では性別を変えた人向けの商品を作るようになったそう。

ここ数年でLGBTをはじめ、いわゆる性的マイノリティと言った言葉も多く聞かれるようになったが、大野さんから見てどう感じるのだろうか。

「メディアでも多く扱われるようになって、理解を示す人が増えたのも確かです。ですが、東京を離れて地方にいくと、差別や偏見が逆に強くなったような気もします。自分自身のことでいうと、猛反対していた親も最終的には理解してくれましたし、性別を変えたことで新しい友達もできました。たまたま誘われたファッションショーのオーディションに受かり、ランウェイを歩かせてもらえたときは嬉しかったですね」

しかし、残念ながら性転換を知って離れていった人や、からかうような言葉を投げた人もいたという。相手がどう思おうと関係ないとか、言ってもわかってもらえないとか、はじめは感情の波に揺れたが、今は他人がどう思おうとも受け流すようになったそうだ。

「自分にとって女性でいることは普通のことで、何か主張して前に立ちたいわけでもないですし」

そう思えるようになったきっかけを聞くと、年齢的に丸くなったこともあるかもしれません、と大野さん。今の仕事であるヘルプデスクの経験も影響しているそう。

「色々な立場や年齢の人とお話をしたり、考えを聞いていると、どれが正解で不正解ということもない気がしてくるんです。性別変更に加え、年齢や仕事の経験も重ねてきたからこそ、考え方も中立になってきたのでしょうか」

子どもの頃からパソコンや情報機器が好きで得意だったことが、今の仕事に繋がっている。これまでに得た知識や経験を活かしつつ、これからもヘルプデスクの仕事に取り組みたいと、大野さんは教えてくれた。

「この先は素敵な人と一緒に過ごしたいですし、お洒落を満喫したり、好きなものに囲まれて生きていたいです。この記事を読んでくださった方も自分らしく生きるためには、まずは自分の心と向き合ってもらえたらいいなと思います」

かわいらしいものに囲まれている時間が幸せ

子どもの頃は表立って欲しいと言えず、遠くから眺めているだけだったぬいぐるみを今は大切にしている。気持ちを抑えることもなく一緒にいられるのが嬉しい。小さいものはカバンに入れて持ち歩くことも。

白の猫の財布は、数年前の雑誌の付録についていたもの。猫のイラストが気に入った。フリマアプリで同じものを見つけ、予備でもう一つ手に入れたそう。

日傘は年中カバンに入れて持ち歩いている。雨の日も日差しが強い日も愛用している。

ライター:松永 怜(まつなが れい)

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