気分や感情をととのえると気持ちがいいだけでなく、パフォーマンスにも関わることがわかっている。そこで効果的なのが「匂い」。匂いは人の気持ちや行動に大きな影響を与える。匂いの力を活用する「香りマインドフルネス」で、心をととのえる方法をうかがった。香りを感じる意識と呼吸法を練習しよう。

講師:松尾 祥子さん
カウンセラー、公認心理師、臨床心理士、アロマセラピスト。
2008年CSPP/カリフォルニア臨床心理大学院臨床心理学修士修了。SAFARI代表。心療内科でカウンセリングをしながら、企業や組織にメンタリングや研修を提供し、EAPサービスを構築する。香りを用いて、個人の心やウェルビーイングに寄り添い20年以上。米国西海岸の実践を重視した統合的カウンセリングを学び、メンタルヘルスやウェルビーイングを活動の中心に据え、環境を重視したコミュニティ心理学の立場から、持続可能な社会づくりの研究にも参加する。

気分は行動に影響するから、上手にととのえて

「アスリートの世界では、心の状態が結果・パフォーマンスに関わることが早くから知られていました」と松尾さんは話す。いつの時代も結果が求められるこの世界では、科学としての心理学の知見を取り入れ、心の状態をととのえること(=メンタルコンディショニング)はマストだったという。

個人でも結果や生活の質が求められる現在、メンタルコンディショニングは、アスリート以外のどんな人にも必要とされる。

そのメンタルコンディショニングに関わる重要な要素に「気分」がある。気分とは持続的に感じられる「ムード」のようなもので、気分が強くなると「感情」として意識される。ここでは、この気分と感情をまとめ、「気分」として扱う。

「気分がノリノリのときと、気分が乗らないとき、仕事をするならどちらが捗りますか?」と松尾さんは投げかける。気分が乗っているときに仕事が捗るのは、誰にも覚えがあるはず。また、怒っている状態もエネルギーになる。「怒っているときに掃除や仕事をすると、次々と進むことがあります」。

つまり、気分(感情)は、行動に影響を及ぼし、行動を引き起こすエネルギー(熱量)だともいえる。

そして、気分とは自分自身ではない。落ち込んでいても、いいことがあればテンションが上がる。気分は一時的にそこにあるが、移り変わっていくものなのだ。

「けれど、『落ち込んでいるのは嫌だ、考えたくない』と思っても、その気分を変えるのはなかなか上手くいきません。そこで気分や感情と上手に付き合うために活用したいのが、香り・匂い・嗅覚です。これには、しっかりとした脳科学のエビデンスがあります」

香りの仕組みと認知行動モデル

松尾さんは、香りや匂いの正体、人が香りを感じる仕組み、嗅覚について説明する。

「匂いを感じることは、分子量300以下の分子が鼻の穴の中に入ることからはじまります。分子量が小さくないと匂いとしては関知されません。したがって、気温が上がり物質が揮発しやすい状態になると、匂い物質は増えていきます。冬に比べて夏の匂いが強く感じられるのは、これが理由です」

匂い物質が鼻に入ると、鼻の奥にある嗅上皮という部分に嗅覚を感知する嗅神経細胞が待ち受ける。香り物質を鍵とすると、嗅神経細胞は鍵穴のような役割をし、匂い物質を受容する。ここで電気信号に変換され嗅球、そして嗅皮質に伝わる。嗅皮質では言葉や形にならないイメージのようなものが形成され、嗅皮質の情報は、扁桃体・視床下部・海馬・前頭野などに送られる。

「扁桃体は、情動的な記憶を司ります。なんとなく心地よい、なんとなく嫌な感じがする、ほっとする、といった感覚を引き起こすのです。ここはストレス反応にも関わります。ストレスを感じるとき、扁桃体によりストレスに対応するための全身の防御反応がとられます。この扁桃体や、自律神経、内分泌系を制御する視床下部へ直接信号を送るのは、視覚や聴覚にはない、嗅覚の特徴です」

もうひとつ、松尾さんは心理学の基本モデルを示した。これは、「認知・思考」「気分・感情」「行動」のつながりを示したもの。

「落ち込んでいるときは、行動が消極的になります。ものごとを悲観的に捉えるようになり、さらに落ち込んでいく……という負のスパイラルに陥りがちです。逆に、積極的でやる気いっぱいのときは、どんどん行動します。そして、『人はとてもあたたかい』という外界の認識が生まれたりします。こうして、良いスパイラルが生まれます」

ならば、できるだけよいスパイラルにしていきたい。そのために、「気分・感情」の部分に、香り・匂い・嗅覚を利用する。

香りで気分を変えるための2つのポイント

「香りで気分を変えるための第1の重要ポイントは、嗅ぎ方です」。クンクンと嗅ぐのではない。松尾さんは、香りが気分に作用することが実感される意識と呼吸の使い方を「香りマインドフルネス」として紹介、デモンストレーションを示した。

まず、香りのするものを用意する。身近にあるものでよい。例えば、ミカンやバナナなどの果物、コーヒーやお茶、お菓子やワイン、ハーブなどでもいい。もちろん、アロマセラピーなどに使われる精油でも構わない。


上図の「香り腹式呼吸」を試すことが「香りマインドフルネス」の導入になる。

できれば目を閉じ、このステップを踏む。はじめから気分の変化を感じられた人は、香りマインドフルネスが最初から上手な人だという。いま実感が得られなくても、続けていくことで、香りマインドフルネスによる気分の変化が得られるようになる。

第2の重要ポイントは、「香りで気分を切り替える、香りマインドフルネスで心をととのえることを習慣づけること」が挙げられた。

朝一番や、日中の細切れ時間、食事時、夜寝る前など、特に気分や感情が意識されないときや、怒りが湧いたり、思わず反論したくなったりなど衝動的になったときに試したい。衝動性が湧いたときに、すぐに好きな香りが用意できなければ、自分の香りを嗅ぐのもいい。縄張り本能で知られるように、自分の香りは本能的に安心できるものなのだそう。

「香りの作用は、遺伝子や生理的な状態、経験や文化、世代、気候などによって異なり、決して一律なものではない」という。そこで、自分の好きな香りを見つけ、効果的に気分を導く香りを選んで、香りマインドフルネスを取りいれた生活を続けるために、以下の表を利用するのもいい。

「たくましく生き抜くことが求められる現代社会の中で、野生や衝動と関わる、発生学的に旧い脳を直接刺激する嗅覚を利用し、日々自分の心をととのえる習慣を身につけていただきたいと考えています。そして、攻撃性や衝動性に振り回されることなく、耳を傾け合える社会になるといいですね。好きな香りは理由などなく、心に安心感をもたらしてくれます」

日常に香りマインドフルネスを上手に取り入れて、集中を高めたり、深くリラックスしたり、イライラしている自分に気づいたりして、心をととのえることを習慣にしたい。

より詳しく学びたい方は「らしく学ぶ」より動画をご覧ください。
https://www.r-staffing.co.jp/rasisa/entry/202010304454/

ライター:栃尾 江美(とちお えみ)

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