【活用事例】現場に寄り添う「専門職派遣」が組織を変える。日本通運が実践する、RPA×VBAの超・実践的業務改善

企業のDX推進や生産性向上が叫ばれるなか、「自動化ツールを導入したものの、現場でうまく活用しきれていない」「IT人材を採用したいが、現場の業務を理解してくれない」といった悩みを抱える企業は少なくありません。 今回ご紹介するのは、日本通運株式会社における業務改善の事例です。同社では特定のお客様(アカウント)に特化した事業所を各所に設けており、今回お話を伺った事業所は、国際航空貨物、国際海運、国内物流の3つの部門が合わさった組織です。 輸出入にかかる各種関係書類のデータ処理や手続きなど、日々複雑な貿易実務が発生するこの現場に、派遣の「IT専門人材」を迎え入れ、目覚ましい業務改善を実現しています。現場のITリテラシー向上を牽引する山口さんと、派遣スタッフとして現場に伴走するKさんのそれぞれに、専門職派遣ならではの魅力と成功の秘訣を伺いました。
目次
日本通運株式会社
アカウントセールスビジネスユニット・次長 山口 哲哉さん(写真右)
派遣スタッフ Kさん(写真左)

日本通運 山口さんへのインタビュー:現場の課題を共に解決する「伴走者」を求めて
──IT人材を採用するのではなく、「外部の専門人材」を派遣で求めた背景を教えてください。
特定のお客様(アカウント)に特化した私たちの現場では、会社主導の大型の自動化ではなく、お客様の細かいニーズに即座に応えられる「小回りのきく自動化」が必要でした。
その際、私たちが求めていたのは、いわゆる「要件定義されたシステムだけを作るIT専門人材やプログラマー」ではありません。現場の社員にしっかりと寄り添い、どんなことでも気軽に相談できて、ともに課題を解決に導いてくれるような存在を求めていたのです。
私自身、WinActorやUiPath(※パソコン上の定型作業を自動化するRPAツール) などの研修を社内で受け、「ノーコードなら自分でもできるのではないか」と勉強して試みたことがありました。簡単なものなら作れるのですが、現場のニーズというのは複雑な要素が絡み合っており、私の知見だけでは到底対応しきれない、専門人材が必要だと痛感したのです。

──決まった定型業務を依頼する事務派遣とは違い、専門職派遣は現場が思いつかない改善アイデアを自ら提案し、形にしていく役割を担います。そのため、人材の活用やマネジメントの方法も大きく異なるのではないでしょうか?
おっしゃるとおりで、依頼する作業を私がすべて理解しているわけではありません。現場のニーズをうまく汲み取って形にしてくれるだろうか、という不安はありました。現場のメンバーに関しても、「自分の業務の何をどう相談していいか分からない」という状態でした。同時に、派遣スタッフのKさんは貿易実務については詳しくありません。
そこで、まずは私が「自動化できそうな業務リスト」を作成し、間に入って現場の担当者に「これなら自動化できると思うんだけど、もっと詳しく業務フローを教えてくれる?」と働きかけ、コミュニケーションの場を設けるようにしました。
──現場との橋渡し役として動かれたんですね。
はい。現場の担当者はKさんに「日々の業務を共有するだけ」で済むようにし、会社特有のルール説明やコミュニケーションの場作りは私が引き受けることで、Kさんが現場に溶け込みやすく、かつ現場も相談しやすい土台作りに徹しました。
ただ、そうした環境作り以上に、Kさんご自身の人柄に助けられている部分が大きいです。Kさんと初めてお会いした際に、求める経験をお持ちなことはもちろん、とても話しやすい方という印象を持ち、この方なら安心だと感じました。
──専門人材を受け入れたことで、組織にはどのような変化がありましたか?
最初は話しかけづらそうにしていた現場のメンバーもいましたが、Kさんから積極的に話しかけてくれるため、今では現場の担当者から直接「これも自動化できますか?」と自発的に相談に行くようになっています。
その結果、現場のITリテラシーが劇的に向上したことが大きな変化です。たとえば「PDFからでもデータが抽出できる」と知った社員が、「だったらこの業務も自動化できるのでは?」と新たな気づきを得るようになりました。Kさんから「こんなこともできますよ」と提案いただき、驚かされることも多いです。
自社の社員だけではどうしても自業務の視点に偏ってしまいますが、外部の専門家の視点が入ることで、部署全体に良い影響が生まれていると感じます。
派遣スタッフ Kさんへのインタビュー:プログラミングとは現場の声を翻訳するコミュニケーション
──これまでのご経歴と、フリーランスではなく「派遣」という働き方を選んだ理由を教えてください。
これまでは正社員として組み込み機器の設計や社内データベース設計などに携わり、上流から下流まで様々な部門と連携しながら仕事をしてきました。イギリスでの駐在経験もあり、その際は日本通運さんにお世話になったのを覚えています。定年退職を迎えた際、まだ元気に働きたいという思いがあり、健康維持や予防医療にもなると考えて、派遣スタッフとして働き始めました。
フリーランス(個人事業主)として働くという選択肢もありましたが、私は長年会社員として働いてきたこともあり、すべてを自分で管理しなければならない点にハードルの高さを感じました。契約手続きだけでなく、年に1回の健康診断といった自己管理も含め、個人で徹底するのは想像以上に大変です。また、交渉ごとも発生します。
派遣という働き方を選べば、そういった煩わしい労務管理や言いづらい相談ごとは、派遣会社が対応してくれます。自分の不得手な事務作業は手放して、自分の最も得意な「プログラミングによる業務改善(アウトプット)」に100%集中できる環境を作れるため、私には派遣というスタイルが一番合っていると思います。

──業務知識がない中で、どのように現場の要望を形にしているのですか?
プログラミングとは、現場の皆さんがやっていることや要望(日本語)をしっかりとヒアリングし、それを「プログラム言語」に翻訳するコミュニケーションだと考えています。
私は貿易実務に詳しいわけではないため、現場の方に業務を教わる必要があります。一度では簡単に理解できないため、操作画面を録画して何度も見直すなどして、自分の中で咀嚼しています。それでも分からない箇所は必ずあります。様々な組み合わせがあるため、私では気が付かないエラーも起こり得ます。現場の担当者や上長の方に、フランクに質問できる人間関係を築いて頂いていることが、何よりありがたいです。
──開発において意識しているポイントはありますか?
「RPA(パソコン上の定型作業を自動化するツール) とVBA(Excelなどの操作を自動化するプログラミング言語) の適材適所の使い分け」はポイントのひとつだと考えています。例えば、システムにログインしてデータをダウンロードしてくるような作業はRPAが得意です。一方で、ダウンロードしたデータをExcel上で高速かつ正確に加工・集計するのはVBAの方が圧倒的に優れています。
自動化というと「すべてをRPAにやらせよう」としがちですが、それですと処理の途中で引っかかってエラーで止まってしまうことがよくあります。だからこそ、RPAにはデータのダウンロードだけを任せ、その後のデータ加工は得意なVBAに任せるというように、それぞれの長所を連携させて「トータルで自動化」することがポイントです。また、人の手による些細な作業でもプログラムに置き換えることで、人的エラーを根絶することができ、安定した精度を提供できます。
──今後の働き方や展望について教えてください
「運も実力のうち」と言いますが、その「運」とは「良い仲間」のことだと思っています。定年後に働くなかで、日本通運の皆様をはじめ多くの方に温かい言葉をいただき、充実した人生を送れていることに感謝しかありません。
今後はAIの利用が促進されると思いますが、AIの出力にはブラックボックスな側面があり、予期せぬエラーはつきものです。データ作成はプログラムが行っても、人間による最終的な確認(ファクトチェック)は欠かせません。その際、人が確認作業を行いやすい「見せ方」を提供する設計こそが重要で、AI利用が進むほど、そうした設計にこれまでの経験値(ハイスキル)が活きてくると考えています。
私が元気に働き続けることが、少子超高齢社会における現役世代への負担軽減に繋がり、一つの良き前例になればという思いを持って、これからもアウトプットを出し続けていきたいです。
編集後記:一事業所の成功から始まった、全社を巻き込む業務改善の「ブーム」
今回の取材を通して最も印象的だったのは、単なる「自動化ツールの導入」に留まらない、人と人とのコミュニケーションが組織全体を変えていくプロセスでした。
山口さんは取材の中で、Kさんのご活躍についてこのように語られていました。 「Kさんは本当にスピード感があり、RPAの開発で時間がかかる処理の待ち時間にも、並行してVBAで別のプログラムをいくつも作ってくださるんです。わからない時は担当者にすぐ確認しながら進めてくれるため、想定以上の効果を出してくれています。」
さらに素晴らしいのは、こうした現在の事業所での成功事例が社内でも共有され、他部署へも展開されているという点です。「山口さんが社内の“火付け役”ですね」という言葉には「とんでもないです」と謙虚に笑われていましたが、「私たちが実践したこの成功事例を見て、他の部署でも『同じことをやってみよう』というブームのような動きが社内で起きていますね」と、確かな手応えを語ってくださいました。
圧倒的な専門スキルを持ちながらも、現場の目線に立って伴走してくれる外部専門人材の存在。そして、その人材が最も力を発揮できる「土台作り」に奔走する現場マネジメントの工夫。日本通運様の「小回りのきく自動化」の取り組みは、DX推進や生産性向上に悩む多くの企業にとって、大きなヒントになるのではないでしょうか。
