「他人に仕事を任せられない人」が考えるべき、1年後のこと

「これは自分でやったほうが早い」「他人には任せられない」と考える「仕事を任せられない人」は一定数存在する。責任感からの行動で、本人は「みんなのために」と思っているが、そのせいで仕事に追われ、組織は育たず、職場全体の生産性を下げることにもなりがちだ。 「これは仕事ができる人ならではの悩み」と話すのは、ベストセラー『任せるコツ』の著者である山本渉氏だ。 なぜ仕事を他人に任せることが「全員のためになる」のか。正しい「丸投げ」と間違った「丸投げ」の違いとは。みなさんを「任せられない」ジレンマから解放すべく、山本氏に聞いた。
あなたはなぜ他人に任せられないのか
──「仕事を他人に任せられない」と抱え込んでしまう人は、どんな組織にも一定数存在します。なぜ「任せられない」のでしょうか。
山本:任せることができないリーダーやマネージャーをたくさん見てきました。彼らがなぜ任せられないかというと「自分でできてしまう」からです。つまり、優秀だからこそ「自分でやったほうが早い」「任せられる人が周りにいない」と考えてしまう。
また、完璧主義者という人も多いです。「100点を取らなきゃ」と考えると、経験の浅い新人に任せてみようとは思えませんよね。ただ、人に任せられるようにならないと、組織として伸び悩んでしまいます。
私が「人に任せるコツ」について話をすると、「山本さんの周りには優秀な人がいるから……」と、よく言われます。
これって、卵が先か鶏が先か、なんですよ。
誰だって最初から「できる人」ではありません。任された仕事をやり切ることでも、成長してきたはずなんです。
──極端なことを言うと、「自分でやったほうがいい」と考える人が、周りの成長機会を奪っているかもしれないんですね。
そうです。適切に任せれば、人はどんどん成長します。成長したら、もっと任せられるようになる。そんな好循環を生み出すためには、まず一度、任せてみるということが重要です。
リーダーがどれだけ頑張っても、仕事を抱え込んでいるうちは、1人分の仕事しかできません。10人のチームなら、10人がそれぞれ今まで以上の力を発揮してくれたほうが、総力として上回ります。
リーダーの仕事は、プレイヤーとして優秀な成績をあげることではなく、チームとして好成績を残すこと、もっと言えば、チームやメンバーを成長させることです。
自分の時間をメンバーの育成に使うことを最初はためらってしまうかもしれませんが、将来的にメンバーそれぞれが成長してくれれば、総合得点は上がっていきます。
一方、「自分でやったほうが早い」を続けていると、今はよくても、メンバーの育成に時間をかけたチームにいずれは追い抜かれます。
メンバーに仕事を任せ、成長を促しているチームは、信頼関係も強くなりますから、時間が経てば経つほど差が開いていきます。
また、「任せる」のは自分が楽をするためではなく、チームのパフォーマンスを最大化するためなので、「誰に何を頼むか」がすごく重要です。「誰でもいいから空いている人に任せよう」では、最初の段階から失敗しているんですよ。
成長を期待するなら、その人が今発揮できているパフォーマンスのちょっと上。「頑張ればできそう」というラインを見極めていくと、信頼と成長の好循環が期待できます。
「丸投げ」の意外な効能
──仕事を任せることで信頼関係も醸成されるのですね。山本さんは最初からそれを理解して「任せる」ことをしてきたんですか。
いえいえ。私もリーダーとして人に仕事を任せる立場になってから、かれこれ15年ほどになりますが、さんざん失敗して、任せるコツを掴めてきたのがこの7〜8年です。
マネージャーになったばかりの頃、「自分がいる意味が感じられないからチームから抜けたい」と言われたことがあります。上司の抜擢で大きなプロジェクトを任され、成果を上げたと思っていた矢先の出来事でした。
ショックでしたが、当時の私は「自分の仕事だ」という気持ちが強く、なかなか人に仕事を任せなかったので、メンバーは「山本さんから信頼されていない」と感じたのでしょう。
一方で、自分のキャパシティの都合で「お願い!」と丸投げしたあと、メンバーから感謝されたこともありました。
「今回のようにメインで案件を仕切ったのは初めてでした。自分にできることが周りに知ってもらえたおかげで、他からも案件を振られるようになりました」と。
私自身は「無茶振りして申し訳ない」と思っていましたが、メンバーは「信頼してチャンスをくれた」とポジティブに受け止めていたのです。「任せる」ことの意外な効果に気付かされた出来事でした。
──「良い任せ方」があるということですね。
私の結論は、「中途半端に任せるより『丸投げ』したほうがいい」です。
ここで言う「丸投げ」とは、無責任に人に仕事を振ることではなく、(下図のように)相手やチームの成長を見込んだ仕事の任せ方をすることです。言うなれば「正しい丸投げ」です。
経験がある人も多いと思いますが、任された仕事に途中で口出しされたり、引き上げられたりすると、「自分がしたことは何だったんだ」と嫌な気持ちになりますよね。
「自分のやり方に合わせろ」とばかりに細々と指示を出されれば、「どうせ後で何か言われるから、指示されたことだけやろう」と主体性を失ってしまうかもしれません。
任せる側は、「多少失敗しても構わない」というくらいの気持ちでいることです。人は失敗を経験し、そこから先に進むために自ら考えることで成長します。
致命的な失敗に陥らないようにだけ気をつけながら、多少自分のやり方や考えと違っても見守りましょう。
丸投げを成功させる3つのコツ
──モチベーションを下げないためにも、「丸投げ」がポイントなのですね。
「正しい丸投げの条件」を満たしている前提ですが、頼み方にも少し工夫すると、さらにやる気を引き出すことができます。
たとえば、「このデータから必要な要素だけ抜いて、まとめておいて」と頼むか、「重要なプロジェクトを通すために必要な資料を作ってほしい」と頼むか。
「今、手が空いているなら頼みたい」と言うか、「クオリティが信頼できるからあなたに頼みたい」と言うか。
どちらがやる気になるかは一目瞭然ですが、無意識にやる気の出ない頼み方や「間違った丸投げ」をしてしまっている人も多いです。
「3人のレンガ職人」の話があります。レンガを積んでいる職人に何をしているか聞くと、「レンガを積んでいる」「壁を作るために積んでいる」「教会を建てるために積んでいる」と3人から違う答えが返ってきた、というものです。
仕事に対するモチベーションは目的を理解しているかどうかで変わりますし、目的がはっきりしていると、目の前の仕事が何に結びつくのかがわかり、自分の役割を果たそうと考える。
細かい指示がなくとも、先のことを考えて「こうしておこう」と工夫する余地も生まれます。
せっかくなら、「教会を建てる」という意識でレンガを積んでいる人に仕事を頼みたいですよね。自分の後輩にそうなってもらうためには、任せる側である私たちの伝え方が重要です。
「自分ならどう任されたらやる気が出るか」という視点は、正しい丸投げを実践するための大きなヒントになるでしょう。
──仕事をしていると、違う部署の人に任せる、あるいはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のように社外のプロフェッショナルに任せる、など「育てる」とは異なる状況も出てきます。任せる先によって気をつけることも違ってくるのでしょうか。
8割くらいは共通だと思います。信頼関係を醸成する方法も、モチベーションを上げる方法も、関係性によって変わるものではありませんから。
マネージャーはチームの労働時間も考慮する必要があるので、社外の人に仕事を任せることも当然あります。社外にお願いする場合は、その道のスペシャリストということもあって、スピードもクオリティも期待できる。
私ははじめて丸投げする人に、以下の3つのポイントを「丸投げを成功させるコツ」としてお伝えしています。
1.よく知っている身近なメンバーにお願いする
2.新人ではなく、ある程度経験のある信頼のおけるメンバーにお願いする
3.新規の小さなプロジェクトからはじめる
社外のプロフェッショナルの場合、すでに②は満たした状態なので、任せる相手とプロジェクトさえ間違えなければ、生産性が上がる確度はかなり高いでしょう。
任せれば、自分も組織も劇的に成長する
ただし、「報酬を支払っているんだからいいじゃないか」というマインドに陥らないよう、注意が必要です。
「ビジネスだから」と言うのであれば、むしろ社内より丁寧に依頼内容を詰めること。具体的には仕事の範囲や納期、予算の確認を、よりしっかり行うということです。
──社内であれば「頼んでたアレ、ちょっと急いで」で済むかもしれませんが、社外の場合、条件が変われば報酬も変わります。
それこそ、ビジネスですからね。
社外の人に仕事の範囲や納期、予算をきちんと伝えて依頼する習慣がつけば、社内の人に任せるときにも、自然と「正しい丸投げ」が実践できる。任せる経験を積んでいない人にとっては、いい訓練になるかもしれません。
──「任せられる人」になると、チームの生産性が高まることはよくわかりました。自分自身にとってもいいことがあるのでしょうか。
たとえば10の仕事があるとき、2を他人に任せたら、残りの8に集中することができます。あるいは、空いた時間で、新しい仕事に手をつけることもできる。
もちろん、任せられた人に実力がついてくるまでは「見守り」が必要ですから、そんなに単純な話でもないんですけどね。
ただ、人に任せることによる気付きや学びも、ものすごくたくさんあります。特に、仕事を多面的・客観的に捉えられるようになることのメリットは大きいですね。すると、自分が集中する「8」の部分にも良いフィードバックが必ずある。
正しい「丸投げ」は人やチームを育てるだけでなく、自分自身も成長させてくれます。皆さんもまずはスモールスタートで、良い丸投げを経験してください。
執筆:唐仁原俊博
撮影:木村雅章
デザイン:小谷玖実
編集:大高志帆
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