特性を理解したフォロー・マネジメントの工夫で障がい者の安定雇用を実現|ディップ株式会社

特性を理解したフォロー・マネジメントの工夫で障がい者の安定雇用を実現|ディップ株式会社

誰もが職業を通じた社会参加のできる『共生社会』実現の理念の下、企業には法定雇用率2.3%(※1)以上の障がい者を雇用する義務があります。一方で、障がい者の雇用率を達成している企業は48.6%(※2)であり、多くの企業の課題でもあります。今回は、身体・精神・知的障がいの安定就業を実現しているディップ株式会社のキャリア採用戦略推進室の井上麻里さん、人事企画室の朝日紀紫子さんにお話を伺いました。

※1  2021年3月改訂障害者雇用率制度
※2  厚生労働省 令和2年 障害者雇用状況の集計結果

ジョブ型雇用の結果、障がいのある方もいた

障がい者手帳をもつ社員が多数活躍しているディップ株式会社ですが、法定雇用率引き上げ以前から、障がいの有無は気にせず採用をされていたといいます。

キャリア採用戦略推進室の井上麻里さん

―現在の障がい者の雇用状況を教えてください。
現在、障がい者申請をしている方の雇用は52名です。障がい区分としては身体21名、知的1名、精神30名という内訳になっています。

―障がい者の方が配属されている部署や担当されている業務を教えてください。
52名のうち、24名はビジネスサポート室という部署で、顧客情報の登録・修正、申込書の作成、求人広告のアップロード、営業リストの作成などをしています。そのほかの方はさまざまな部署の中で担当を持って業務を遂行しています。

―障がい者雇用推進の背景を教えてください。
弊社の採用は以前より、適正なスキル・経験を持った方に適正な業務をおこなっていただく、『ジョブ型雇用』が中心です。そのような採用のなかで、「実は○○という障がいを持っています」という方はいらっしゃいましたが、障がい者採用という枠の意識はありませんでした。

業務拡大の中で新卒の採用が増え、会社として従業員規模も大きくなっていき、障がい者法定雇用率の引き上げもあり、障がい者採用に注力してまいりました。

さまざまなコミュニケーション手段を用意することで、日々の変化をとらえる

障がい者の方が増え、配属部署も広がっていくと、現場から人事へマネジメントに関する相談ごとも増えていきました。そこで着任されたのが、就労移行支援や特例子会社での就業経験があった朝日さんでした。

人事企画室の朝日紀紫子さん

―現場からは障がい者のマネジメントに関してどのような相談があったのでしょうか。
体調や配慮に関しての相談が多いですね。現場部署も人事も障がいに関しての専門知識があるわけではなく、ケースごとに対応を都度考え協議していくスタイルでは限界があると感じました。

―安定就業に向けて全社的におこなっている工夫はありますか?
全体的には配属場所に関わらず、障がい者雇用で採用された従業員には月に1回の希望制面談を実施しています。何かあった時だけ実施する、定例でおこなう、など開催頻度は本人の意思を尊重しています。面談の枠組みがあるだけで、何かあった際の相談先が明確になり、安心感が醸成されると考えています。

―障がい者の方が多くいらっしゃるビジネスサポート室独自のマネジメントはありますか?
ビジネスサポート室では、就業状況を確認できるスキームを取り入れています。1日3回のミーティングによって様子の変化を確認し、Slackでいつでも気軽に質問できるようにしています。また、1日の業務が終了した際には、日報を記載いただき、コメントを残すようにしています。

―さまざまなコミュニケーション手段を用意されているのですね。
はい。体調変化を口頭で伝える方が得意な方もいれば、書くことが得意な方もいらっしゃるので、さまざまなケースを想定してコミュニケーション手段を複数用意することによって、個々の状況掌握度が深まりました。また、コミュニケーション手段を用意するだけでなく、チャットのような即時性を求めるツールを使ってなるべく時間を空けずに返信することを基本としています。確認が必要な内容でも、「確認をしてから返信します」と、対応中である旨を伝えるようにしています。また、会議などで席を空ける場合などには、予定の共有もおこなっていますし、カレンダーで予定を確認いただけるようになっています。

―フォローやマネジメントは安定就業につながっていますか?
これらの取り組みで早期の問題発見・対処ができるようになりました。ビジネスサポート室が立ち上がり1年半経過していますが、退職者はまだひとりもいません。
障がい者の方にとって必要なものを想定し、事前に状況を把握することが好循環していると思っています。

サテライトオフィス立ち上げがきっかけで障がい者の完全在宅勤務を開始

ディップ株式会社では多くの障がい者の方が在完全宅勤務をされています。在宅勤務に至った経緯やメリットをおうかがいしました。

dipWAYのdream、idea、passionについて書かれているエントランス

ディップ株式会社企業理念
私たちdipは夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる

dip WAY
dream
自ら夢を持ち、語り、夢の実現に努力する。私は決して途中で諦めない。
idea
アイデアは成長、発展の源である。個性を尊重し自由闊達な社風をつくり、 イノベーターとして価値あるサービスの創造を追求する。
passion
まず自らが熱くなり、周りを熱くする。惜しげなく誉め、共に喜び、悩み、励まし、語り合う。 チームワークとリーダーシップで一致団結して勝利を勝ち取る。

―体制を整えられたことで社内にも変化はありましたか?
はい。社内の障がい理解が促進されたと思います。採用時にスキルや配慮事項を整理して伝えることで受入準備が具体的に進みました。部署と連携をとり、不測の事態がおきたときに人事が即対応できる仕組みができあがりました。また、組織対応として、全社の障がい者のうち約半数が就業する『ビジネスサポート室』での就業促進が始まっていきました。

―ビジネスサポート室に関して詳しくお聞かせいただけますか?
立ち上げのきっかけは、全社で点在している定型・共通業務を切り出し、センター化したサテライトオフィスを作りたいということからです。弊社は毎年新卒の大量採用をしているので、ある程度の障がい者の採用人数が必要でしたし、オープンポジションでの募集だとなかなか採用が追いつかいないので、障がい者の方々に就業いただくオフィスとして立ち上げたというのが背景です。業務の切り出しが進むなか、新型コロナウイルスの影響で障がい者の在宅勤務も推進できるのではないかという意見が生まれ、センター立ち上げから間もなくビジネスサポート室の完全在宅勤務の採用が始まりました。

ビジネスサポート室で障がい者の雇用を在宅勤務で進められたことは、大きなターニングポイントでした。この決断の中には、フォロー・マネジメントの指揮をとれる担当者(朝日さん)の存在が必要不可欠でした。ビジネスサポート室での障がい者受入と障がい特性を理解している担当者の2つが無ければ、ここまでの雇用促進や安定雇用は実現しなかったと思います。

―障がい者の方にとって在宅勤務はどのようなメリットがあるのでしょうか?
やはり通勤に関わる負担が無いことですね。身体障がいの方には、移動などの物理的な負担があります。また、精神障がいの方の中には、満員電車の圧迫感やオフィスでの周囲の声を苦手とされている方もいます。業務スキル面では問題の無い方でも通勤による負担が原因で仕事に従事できなかった方にとっては、大きなメリットになると思います。

在宅勤務における懸念事項を求人票で払拭

予想に反して、求人を出した当初は応募が少なかったものの、求人票の書き方を改善することで応募が増えたといいます。

大きなテーブル席や窓際のカウンター席、ソファ席などが設置されたdip cafe(ディップカフェ)は、休憩や気分転換をするのに社員が自由に使用できる。

―採用チャネルは何を利用されていますか?
現在は、おもにハローワークと自社ホームページの求人掲載です。
在宅勤務で募集を始めたときは、地方の方もご応募いただけるのではと期待していましたが、採用エリアの拡大は当初想定通りにはいきませんでした。そこで、求人票の書き方を改善しました。例えば、在宅勤務でも月に数回は出勤が必要なのでは?と思う方のために『完全在宅勤務』と記載したり、パソコンの提供などリモート環境における懸念事項を明文化したりなどです。そうしていくことで、地方からの応募が増えてくるようになりました。

―採用フローを教えてください。
ビジネスサポート室の在宅勤務採用は、障がい特性に関係なく、書類選考→1次面接→最終面接の工程で行われます。高いパソコンスキルは必要ないので、障がい特性やコミュニケーションの確認をメインに行っています。書類はメールで送付していただくケースが多く、面接はオンラインでおこなうため、通信状況やITの親和性などもこの段階で確認ができます。
一方、ジョブ型雇用はオープンポジションという形で採用を継続しています。専門性のある方には、SPIや部署面接を経て通常と変わりないフローでの採用をおこなっています。

―採用の際にはどのようなことを確認されていますか?
障がい特性においての配慮事項はしっかりと確認します。また、こちらの質問内容に明確に答えられているかは大事な点です。回答がずれてしまったり、必要以上に長時間お話しされてしまったりする場合は、コミュニケーション面で業務遂行に支障が出てきてしまうケースがあります。オンラインですと、背景でお部屋のなかが見えることがありますが、在宅勤務ではその場が働く場所であるともいえるので、背景で環境管理ができる方なのかも推測しますね。

安定就業の実現後は、障がい者のキャリアアップを促進していきたい

障がい者の採用や安定就業を実現されているディップ株式会社。今後の展望をお聞きしました。

「日本一コミュニケーションが取りやすいオフィス」をコンセプトにつくられたオフィス。フロアにパーティションがないだけでなく、収納にも視線を遮らない高さのローキャビネットを配置することで、とても見通しの良い空間になっている

―今後さらに障がい者雇用推進をしていくなかでの課題はありますか?
障がい者の方の安定就業が軌道に乗ることで平均就業年数が長くなることが想定されます。人事として次はキャリアアップを考えていきたいと検討しています。キャリアのバリエーションを広げるなど、モチベーション形成をしていく方法はどのようなものがあるかを考えていきたいと思っています。

―ビジネスサポート室の業務や人員の拡大は考えていますか?
ビジネスサポート室では各部署の方とメールや電話で連携をしていくこともあります。想定よりも対応がスムーズと評価をいただくことも増え、営業サポート業務を新たにお願いしたいという相談も舞い込んできています。今後、どういった業務切り出しができるかを考えながら、安定就業を維持できる範囲を見極めつつ方向性を考えていきたいと思っています。

まとめ

ディップ株式会社では、障がい者の雇用に小さな工夫を重ねていくつものコミュニケーションスタイルを用意されています。安定就業のために大切なのは、何かあった際にサポートしてくれる体制があるという安心感のようです。日々のコミュニケーションを怠らず、些細な質問にも迅速にていねいに回答することで、大きなトラブルを未然に防ぐ効果があります。障がい者のフォローには、経験や知識が必要かもしれませんが、社内の理解を促進することで支えあっていけるといいですね。

派遣のご依頼はこちら お問い合わせはこちら