【2025年】育児・介護休業法改正のポイントと企業に求められること

育児・介護休業法は、子育てや介護を担う、多くの労働者の生活に直結する法律のひとつです。社会状況に合わせて頻繁に見直されており、2025年には4月と10月の2回に分けて、改正施行が予定されています。 今回は、2025年に施行される、育児・介護休業法の改正ポイントのほか、企業が対応すべきことや注意点について解説します。
目次
育児・介護休業法とは
育児・介護休業法は、正式名称を「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。育児介護休業法の目的は、育児休業や介護休業などの制度によって、労働者が仕事と家庭との両立を図れるようにすることです。
育児・介護休業法では、下記のように育児や介護を担う労働者が、制度を活用しながら働き続けられるよう、法律によって柔軟な仕組みが整えられています。
<育児・介護休業法で定められている制度(2025年3月時点)>
育児休業 | 労働者が、原則としてその1歳に満たない子を養育するための休業。子が1歳(最大2歳)に達するまで取得可能。 |
産後パパ育休(出生時育児休業) | 産後8週間以内の子の養育のための休業。4週間(28日)を限度として取得可能。 |
子の看護休暇 | 小学校就学前の子が病気やケガをした際の世話などのための休業。子1人につき年間5日まで取得できる(2人以上の場合は10日まで)。 |
介護休業 | 要介護状態にある家族の介護のための休業。対象家族1人につき93日まで、3回まで分割して取得できる(開始2週間前までに事業主に書面での申請が必要)。 |
介護休暇 | 要介護状態にある家族を介護するための休業。対象家族1人につき1年で5日間取得できる(事業主に申請が必要、当日でも可能)。 |
※厚生労働省「育児・介護休業法の概要」から作成
育児・介護休業法等改正の3つのポイント
2025年の育児・介護休業法等改正では、おもに下記の3つの分野で改正がおこなわれる見込みです。
・子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
・育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
・離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
これらの目的は、男女共に育児や介護と仕事を両立し、柔軟な働き方ができるよう、これまで以上に支援を厚くすることです。
2025年4月1日に施行される育児・介護休業法改正のポイント
2025年の育児・介護休業法は2回に分けて施行されることになっています。4月1日の施行では既存の制度の拡充が中心であり、下記のような内容です。
<2025年4月1日施行の育児・介護休業法改正のポイント>
・子の看護休暇の見直し
・残業免除の対象範囲拡大
・テレワーク環境の整備
・育休取得状況の公表義務の拡大
・介護離職防止措置の義務化
子の看護休暇の見直し
現在の育児・介護休業法における子の看護休暇は、子の病気やケガの看護(予防接種や健康診断も含む)がおもな目的とされていました。2025年4月からは、病気やケガの看護に加え、入園(入学)式や卒園式への参加、感染症に伴う学級閉鎖等も看護休暇の取得理由に含まれる予定です。
対象となる子の範囲も拡大され、現行制度では「小学校就学の始期に達するまで」ですが、「小学校3年生修了まで」に延長になります。
さらに、現行制度では継続雇用期間が6ヶ月未満の場合に、労使協定によって看護休暇の適用除外とすることができましたが、改正後は週の所定労働日数が3日以上であれば、適用除外とすることができません。
子の健康面だけでなく、行事や面談など育児全般にまつわるサポートとして看護休暇を取得できるようになり、名称も「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変更されます。
残業免除の対象範囲拡大
従来、3歳未満の子を持つ労働者には、残業免除などの措置が適用されていました。2025年4月の改正では対象範囲が拡大され、3歳以上小学校就学前の子を持つ労働者についても、一定の条件下で残業を免除するように義務づけられる見通しです。
これにより、保育園や幼稚園の送迎、体調不良など、突発的な対応が必要になりやすい年齢の子を養育していても、より安心して働き続けられる環境の整備が期待されます。
テレワーク環境の整備
労使協定により、育児の短時間勤務制度を講ずることが困難な業務に従事する労働者を短時間勤務の適用除外としている場合、企業は代替措置を講じなければなりません。2025年4月の改正では、代替措置の「育児休業に関する制度に準ずる措置」や「始業時刻の調整等」に加えて、「テレワーク」が追加される予定です。
また、3歳までの子がいる従業員に対して、テレワークを選択できるように措置を講ずることが、企業の努力義務となります。
育休取得状況の公表義務の拡大
2022年の育児・介護休業法改正で、従業員数1,000人を超える企業に対しては、「男性の育児休業等の取得率」「育児休業等と育児目的休暇の取得率」の公表が義務づけられました。
2025年4月以降は対象範囲がさらに拡大され、従業員数300人を超える企業に取得状況の公表が義務づけられます。
介護離職防止措置の義務化
労働者が介護に関する制度を利用しないまま、離職に至る事態を避けるための措置が義務化されます。従業員から、家族が介護を必要とする状況になった旨の申し出があった場合、企業は両立支援制度などについて個別に周知するとともに、取得の意向を確認しなければなりません。
現在の育児・介護休業法では、育児休業に関する制度について、個別の周知や取得の意向確認が義務化されていますが、2025年4月以降は介護休業についても同様の措置がとられることになります。
また、介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供や研修の実施、相談窓口の設置といった雇用環境面の整備も、法改正によって義務化されます。さらに、要介護状態の家族を介護する労働者が申し出た場合、テレワークを選択させることが努力義務となりました。
2025年10月1日に施行される育児・介護休業法改正のポイント(予定)
2025年10月1日に施行される育児・介護休業法施行で義務化されるのは、下記の2つです。
<2025年10月1日施行の育児・介護休業法改正のポイント>
・柔軟な働き方を実現するための措置
・働き方に関する個別の意向聴取・配慮
柔軟な働き方を実現するための措置
2022年の育児・介護休業法改正でも、企業に対して「個別の周知・意向確認義務」が新たに課されましたが、2025年の改正ではさらに拡充が見込まれています。3歳~就学前の子を持つ従業員に対し、企業は下記の5つから2つ以上の制度を選択し、整備しなければなりません。
<柔軟な働き方を実現するために、企業が選択して講ずべき措置>
・始業時刻等の変更:1日の所定労働時間を変更せず、フレックスタイム制か時差出勤制度を整備する
・テレワーク等:1日の所定労働時間を変更せず、月に10日以上テレワークを利用できるようにする
・保育施設の設置運営等:保育施設の設置運営や、ベビーシッターの手配、費用負担などをおこなう
・養育両立支援休暇の付与:1日の所定労働時間を変更せず、年に10日以上養育両立支援休暇を付与する
・短時間勤務制度:1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含む、短時間勤務制度を整備する
労働者は、企業が講ずる措置から1つを選択して利用できます。なお、企業は3歳未満の子を養育する従業員に対し、制度の利用対象となる前に個別に周知し、利用の意向確認をおこなう必要があります。
周知期間は子が3歳の誕生日を迎える1ヶ月前までの1年間(1歳11ヶ月~2歳11ヶ月になる翌日まで)です。
働き方に関する個別の意向聴取・配慮
従業員本人や配偶者の妊娠・出産の申し出があったときと、子が3歳になるまでの時期(子の3歳の誕生日の1ヶ月前までの1年間)に、企業は下記の項目について意向を確認しなければなりません。
<企業が妊娠・出産の申し出があった労働者に意向聴取すべき内容>
・勤務時間帯
・勤務地
・両立支援制度等の利用期間
・就業条件(業務量や労働条件の見直しなど)
また、聴取した意向について、自社の状況に応じて配慮することが求められます。
次世代育成支援対策推進法に関する改正
2025年の育児・介護休業法の改正では、あわせて次世代育成支援対策推進法(次世代法)に関する改正もおこなわれます。次世代法は、子供の健全な育成の支援を目的に、2005年に10年間の時限法(有効期限のある法令)として施行されました。その後の改正で期限が延長され、2025年4月の改正で2035年3月31日まで延長されることが決まっています。
次世代法の改正のポイントは、下記の2つです。
<2025年4月1日施行の次世代法改正のポイント>
・行動計画での数値目標設定の義務化
・次世代法の有効期限を10年間延長
行動計画での数値目標設定の義務化
常時雇用する従業員が100人を超える企業が、行動計画(一般事業主行動計画)を策定・変更する際、現状の育児休業取得状況や労働時間の状況を把握し、それにもとづいた数値目標を設定することが義務化されます。これにより、実情に即した計画づくりと数値の達成に向けた具体的な取り組みが求められるようになるでしょう。
施行される2025年4月1日以降に開始する行動計画から義務の対象となり、その後は行動計画の内容を変更する場合も現状を把握し、そのうえで数値目標を設定する必要があります。なお、従業員数が100人以下の企業は義務化されておらず、努力義務の対象です。
次世代法の有効期限を10年間延長
次世代法は子育て環境の充実を図るために、企業や行政が取り組むべき項目を示す法律であり、「くるみん認定」や「プラチナくるみん認定」などの認定制度でも知られています。
次世代法の有効期限は2035年3月31日まで延長されるため、企業の次世代育成支援の取り組みが引き続き推奨・強化されることになります。改正のタイミングで、くるみんやプラチナくるみんの認定基準等も改正されるため、これから認定の申請を予定している企業はチェックしておきましょう。
育児・介護休業法等改正で企業が対応すべきこと
育児・介護休業法等の改正のポイントを踏まえ、企業には下記のような対応が求められます。
従業員への周知
育児・介護休業法の改正内容は多岐にわたり、施行時期も2025年4月と10月に分かれています。まずは、企業側が内容を正しく理解し、就業規則の変更や社内規定の策定と併せて、従業員に周知徹底を図る必要があります。
社内研修や説明会を開催したり、イントラネットを利用してFAQを充実させたりと、従業員が気軽に制度を確認できる仕組みを整えましょう。
就業規則の追記・修正
制度の変更や公表義務の拡大など、改正事項を反映した就業規則の変更も必須です。特に、育児休業や介護休暇の対象拡大、テレワークに関する取り扱いなどは、明確に規定しておかなければ混乱を招くおそれがあります。法令に適合した形で、社内状況に即したルールを策定・整備しなければなりません。
就業規則の変更については、厚生労働省が規定例や社内様式例などをまとめているため、参考にすると良いでしょう。
業務体制の見直し
短時間勤務やテレワークの増加に伴い、人手不足やコミュニケーション不足が懸念される場合もあります。組織としては、効率的な業務分担や情報共有の方法を再検討する必要があるでしょう。
デジタル化を推進し、どこからでもアクセスしやすいクラウド環境を整備する、外部リソースの活用や業務委託を検討するなど、従業員が安心して休暇や短時間勤務を取得できる体制づくりが求められます。
育児休業取得状況の公表準備
育児休業取得状況の公表義務の対象となる企業は、育児休業を取得しやすい環境を整備するとともに、取得率や日数などのデータを正確に把握する必要があります。データ集計に必要なシステムの整備や運用ルールの確立を早めにおこない、公表が義務化された際、円滑に対応できるよう準備を進めましょう。
体制を整備して、育児・介護休業法の改正に対応しよう
2025年に施行される育児・介護休業法等の改正は、4月と10月の2回に分かれて実施される予定であり、企業と労働者の双方にとって大きな影響を及ぼすものとなりそうです。
企業においては、就業規則や社内制度の見直し、従業員への積極的な情報提供・意向確認が重要です。また、実際に休暇や短時間勤務を取得する従業員をサポートする業務体制や人員配置、テレワーク環境の整備なども欠かせません。
今後、詳細な省令や指針が示されるにつれて、具体的な対応策も明確になってくるでしょう。経営者や人事・労務担当者は、最新情報をキャッチアップしながら、2025年の改正施行に向けた体制整備を早めに進めることが望まれます。