アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が人材活用に与える影響

2021.02.16

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が人材活用に与える影響

企業がさまざまな働き方を受け入れ、多様な人材に活躍してもらうために「アンコンシャス・バイアス」の存在が注目されつつあります。ここでは「アンコンシャス・バイアス」とは何か、その存在によって生じる人事領域での影響などについてご紹介します。

アンコンシャス・バイアスとは

人間になら誰にでもある意識の偏り

アンコンシャス・バイアスは、「無意識の思い込み」や「無意識の偏見」などと訳され、本人は気づいていない(意識することのない)「ものの見方やとらえ方のゆがみや偏り」を指します。その人が蓄積してきた経験や知識、育った環境や習慣といったさまざまな要素をもとに形成され、その多くは本人が認識しないまま、無意識の状態で表出します。

このアンコンシャス・バイアスによる瞬時の判断や意思決定は、人間が狩猟や採集の生活を営んでいた時代に培われ、脳内に刻まれたものといわれています。人間なら誰でも持っているもので、それ自体に良し悪しがあるわけではありません。大量の情報をすばやく処理して行動するためには欠かせないものです。

アンコンシャス・バイアスがはたらく例

たとえば「女性の社会進出は必要か」「仕事と家庭の両立は歓迎すべきか」という質問を受けたとき、多くのみなさんは「Yes」と回答することでしょう。アンコンシャス・バイアスに関するeラーニングプログラム『ANGLE』を提供するチェンジウェーブ社が実施したアンケートでも、9割以上の人が「とてもそう思う」「そう思う」と回答しました。

それでは、同じ回答者にジェンダーに関する考え方を加えて聞いてみるとどうでしょう。「仕事の遂行能力について男女差はないと思っているか」という設問に「Yes」と回答した人は約7割で、「経営会議のメンバーは男女同数であるべきだと思うか」という設問では5割弱という結果でした。さらに「1歳以上の子どもがいる社員に海外出張を打診するか」という設問になると、「男性に打診する」という回答者が67%だったのに対して、「女性に打診する」という回答者は33%に過ぎませんでした。「性別による差をなくすべき」と考えている人でも、それぞれの状況が具体的にイメージできる各論になると、回答に詰まったり回答が変わったりすることがあるようです。

アンコンシャス・バイアスの問題は、本人にそのような意図がなくても、過去の経験則に基づく反応によって、無意識のうちに思いつきや偏見に影響された意思決定をしてしまう可能性があるという点です。

アンコンシャス・バイアスがはたらく例

「チェンジウェーブ『ANGLE』内で実施したアンケート集計結果」/リクルートワークス研究所の機関誌『Works』150号(2018年10月発行)より抜粋

アンコンシャス・バイアスが注目されている理由

米国でアンコンシャス・バイアスが盛んに研究されるようになったのは1980年代ですが、一般に知られるようになったのは2010年代に入ってからのことです。米国シリコンバレーの大手IT企業従業員の人種や性別などの構成比に偏りがあることが明らかになったことがきっかけでした。その背景にアンコンシャス・バイアスの問題があることが指摘されたことから、人事領域での重点課題として取り扱われるようになったのです。日本においても、働き方の多様化が進んで労働力人口の構成に大きな変化が見られるようになってきたことから、アンコンシャス・バイアスと向き合う必要性が高まり、注目を浴びることになりました。

アンコンシャス・バイアスの典型パターン

アンコンシャス・バイアスには、さまざまなものがあります。ここではそれらのうち典型的な例をあげて偏った判断や意思決定をしてしまう傾向について紹介します。

カテゴリーや属性によって決めつけてしまう

「関西の人はおもしろい」「インドの人は数学が得意」というように、実際には会ったことのない人であっても、その人が属するカテゴリーを聞いただけで一定の人物像をイメージすることはないでしょうか。その人の個性や考え、具体的な行動をよく知らないにもかかわらず、瞬時に評価して対応を決めてしまう現象はアンコンシャス・バイアスの典型例です。こうした先入観や固定観念による決めつけによって、客観的で冷静な判断を妨げられることがあります。

代表的な事例や似たタイプに左右される

その人が属するカテゴリーの代表的な事例や典型的なデータを用いて「この人はこういう人だ」と評価してしまうパターンです。たとえば「女性はすぐに辞める」「シニアは新しいことをやりたがらない」など、一般的な固定観念によってイメージが左右されてしまいます。また、これまでに会った「似たタイプ」にイメージを重ね合わせることもあります。面接対象者の一部の側面が、ある部下に似ていると感じた瞬間、その部下の業務の進め方を想起し、まったく関係のない人物の評価に影響を与えるといったケースです。

仮説や思い込みに左右される

人間には、あらかじめ持っている仮説や先入観に合致したデータだけを求める傾向があるといわれています。ひとたび仮説を抱くと、その反証となる事象を無視したり、自分の都合のよいように解釈したりします。自分のなかで「こうに違いない」と思うと、それを補強し正当化するような情報ばかりを集めてしまうため、ものごとを多面的にとらえることができなくなってしまいます。

自分にとって都合の悪い情報を過小評価する

人間には、予期しない事態が生じたときに「ありえない」という先入観や偏見がはたらいて、ものごとを正常な範囲内のことだと認識しようとする傾向があります。危機的な状況が差し迫っているのにもかかわらず、それを無視したり過小評価したりすることで「まだ大丈夫」と思い込んでしまうために、事態はますます深刻な状況に陥ります。

自分と似た人を優遇する

自分が所属する集団に対して、ほかの集団よりも好意的に行動する傾向があります。自分と同じ出身地や出身大学、同じ事業部で育ってきた人に「目をかける」という行為がこれにあたります。

バイアスが本人にとっての「予言」になる

何らかの予言をして、それが契機となってものごとが動き、予言することがなかったら起こらなかったであろうことが叶うことがあります。「管理職は男性がなるものだから、女性である自分には向いていない」という思い込みや無意識の評価が、自らの将来に対する予言となって、結果として自身の昇進を遠ざけることもあります。

思いやりの背後に潜む偏見

少数派に対して好意的ではあるものの、身勝手な思い込みを抱いている場合に生じるバイアスです。たとえば「子どもがいる女性は、育児がたいへんだから負荷の高い業務を任せないほうがよいだろう」という判断は、相手を思いやっているようですが、本人の希望や意思に反する場合には、偏った評価ということになります。

人事領域・マネジメントで見られるアンコンシャス・バイアス

人事や各現場のマネジャーがアンコンシャス・バイアスを持つことによって、人事領域で起こりえる影響について考えます。

採用場面で見られるバイアス例

  • 自分と同じタイプを選好する
  • 採用基準とは関係のない属性に影響される
  • 募集時に組織における多数派の価値観を表現する
  • 応募者にこれまでに会った似たタイプを投影する
  • 面接で「思い込み」を裏付けるデータを収集する

採用のシーンでは、応募者の属性によって担当者の印象が左右されたり、担当者の思い込みによって正当な評価ができなくなったりすることがあります。たとえば面接の最初の数分で「この人はこういう人だろう」と判断してしまうと、その後の質問は、その仮説を検証するためにおこなわれてしまう場合があることなどです。

人事考課場面で見られるバイアス例

  • 直近に成果をあげた人を高く評価する
  • もともと評価の低い部下に対して、評価の低さを裏付ける情報を集める

人事考課は、その人が持つ能力や成果によっておこなわれるべきものですが、この評価という意思決定にバイアスがかかると、適正な評価に支障をきたすことがあります。人は思い出しやすくて利用しやすいデータを指標にする傾向にあり、1年周期の人事考課であっても、直近の3ヶ月で成果をあげた人をより高く評価しがちです。

育成場面で見られるバイアス例

  • 「女性は辞める」といった通説を過大に信じる
  • ジェンダーや年齢によって職種や役割が固定的になる
  • 自分と同じカテゴリーの人に目をかけ優遇する

その人が属するカテゴリーの代表的な事例や典型的なデータを用いて、「この人はこういう人だ」という評価をしてしまうことがあります。たとえば「定時で帰る人はやる気がない」「ゆとり世代はのんびりしている」といった固定観念が、評価に影響を及ぼすことによって、適切な育成の機会を逃してしまうことになります。

配置・昇進場面で見られるバイアス例

  • 昇進の要件を能力ではなく属性で見る
  • 属性によって過剰な配慮をする
  • 自分の属性によって昇進に自ら限界を設ける

昇進を検討する際に、男性の名前が真っ先にあがったり、日本人以外の名前があがらなかったりという傾向が顕著であれば、能力や成果ベースではなく、属性が評価に影響している可能性があります。「ワーキングマザーに海外出張や駐在は無理」など、個人の状況や能力を正しく見ることなく、過剰な配慮がはたらくことによって、本来は与えられるはずの機会が失われることがあります。また「自分は〇〇だから」など、自らの属性を気にしたり言い訳にしたりして、自分の可能性に制限をかけてしまうこともあります。

アンコンシャス・バイアスが与える悪い影響例

アンコンシャス・バイアスがもたらすネガティブな影響について、組織に及ぼすものと、従業員個人に及ぼすものとを分けて例示します。

組織に与える悪影響

  • 採用・昇進・評価・人材育成の公正さの欠如
  • 人間関係の悪化
  • 組織の多様性を阻害
  • ハラスメント・コンプライアンス違反
  • イノベーションの阻害
  • 離職率の増加

アンコンシャス・バイアスの悪影響は、組織全体に波及していきます。とくに管理職やリーダーが発する言動に思い込みや偏りが見られる場合には、部下の発言や行動が抑制され、企業活動のパフォーマンスを停滞させることがあります。

従業員に与える悪影響

  • モチベーションの低下
  • 疎外感・孤独感
  • 自発的思考・発言の低下
  • 過大・過小評価
  • 言い訳・弁解の増加
  • 挑戦意欲の低下
  • 成長の阻害

アンコンシャス・バイアスによる負の影響は、組織全体だけではなく、従業員個人の間にも波及します。年齢や性別などに対する無意識のバイアスが、従業員同士の普段の会話にも表出し、職場の人間関係を悪化させるケースは少なくありません。

まとめ

アンコンシャス・バイアスは、人間なら誰でも持ちうるものであり、経験則による直感がビジネスを成功に導いた例も多くあります。このことを踏まえて、人は常に何らかのバイアスの影響を受けて行動することを前提に、自分たちがどのようなときに思い込みや偏りのある判断をしやすいのかを意識し、組織としてよりよい方向に向かっていけるように力を注ぐことが大切です。

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