行動特性で人を評価する「コンピテンシーマネジメント(評価)」

2022.01.28

行動特性で人を評価する「コンピテンシーマネジメント(評価)」

日本で長年運用されてきた「職務遂行能力」評価に変わり、「コンピテンシーマネジメント(評価)」を導入する企業が増えています。そもそも「コンピテンシー」とは何か、なぜ今多くの企業が注目しているのでしょうか。「コンピテンシーマネジメント」の特徴と、これから導入する際に必要な考え方と手順について紹介します。

「コンピテンシー」とは

企業においての「コンピテンシー」は「行動特性」のこと

英語の「competency」を日本語で直訳すると、「能力」「適格」「力量」「適性」となります。一方、最近ビジネスの世界で注目されている「コンピテンシー」は、「職務や役割において高いパフォーマンスにつながる行動や考え方の特性」を意味しています。高い成果をあげることに直結している行動や性格、知識など、企業においてハイパフォーマーの「行動特性」を「コンピテンシー」と表現します。

「コンピテンシー」という概念が生まれた背景

「コンピテンシー」という概念は、1970年代にアメリカで生まれました。従来、IQ値や学歴重視で人材採用をおこなってきた米国文化情報局(USIA)が、「高いパフォーマンスとIQや高学歴は直結しない」という仮説を唱えたことに端を発します。

調査・分析の結果、パフォーマンスとIQ・学歴とは相関性が低いことが明らかになりました。同時に、高い業績をあげている人には、ハイパフォーマンスにつながる考え方や性格のパターンが見られ、そうした人特有の行動特性があることがわかったのです。

その調査結果をもとに体系化されたのが、「コンピテンシーマネジメント(評価)」の概念です。日本の企業でも、1990年代の終わり頃から人事マネジメントの分野で導入するようになりました。

「コンピテンシー(行動特性)」と「職務遂行能力」の違い

日本では1960年代に日本経済団体連合会が提唱した「能力主義」の推進によって、多くの企業が「職能遂行能力」を人事の評価基準として導入してきました。日本企業に普及している「職務遂行能力」と「コンピテンシー」の間には、共通項もあるものの、「能力」についての捉え方と「評価」の基準に違いが見られます。

「職務遂行能力(職能)」とは

「職務遂行能力」とは、「業務や役割を成し遂げるために必要と考えられる能力」を意味します。本人の性格や適性、知識、意欲、経験といった要素などから成り立つもので、その質・量ともに環境や努力によって変化するため、流動的で相対的な能力であるといえます。

「能力主義」は、年齢やキャリアに関係なく、成果をあげた人を正しく評価することが目的なので、本来「職務遂行能力」とは顕在能力を示すべきものですが、意欲や性格なども含んでいるために、結果的には潜在能力の意味合いが強い概念として定着したようです。

また、「職務遂行能力」は評価の過程で考課する人の主観や思い込みが介入しやすいことから、「年齢」や「勤続年数」のバイアスがかかる傾向があり、その結果、日本企業の特徴ともいえる「年功序列」の人事制度定着の一端を担ったと考えられています。

「職能遂行能力」「コンピテンシー」ともに、人材の潜在能力・顕在能力の双方を扱うものであり、ハイパフォーマンスにつながる行動特性を扱っているという点では共通しています。しかしながら、「能力」についての捉え方と「評価」の基準には以下のような違いが見られます。

違い1|「能力」の定義

「職務遂行能力」では、業務をやり遂げるために必要と思われる能力を、知識や技能、性格などに分解し、それぞれを独立したものとして捉えます。そして「こうあるべき」という会社の理想像をもとに、「この知識とスキルがあればできるだろう」と希望的な視点で能力を捉えます。

一方「コンピテンシー」は、「知識やスキルがあっても活用できる能力がないと成果を出せない」という考え方のため、特定の行動に結びつく知識やスキル、性格、意欲などを個別に見るのではなく、複合的な「行動特性」として捉えます。

違い2|「評価」の基準

「職務遂行能力」「コンピテンシー」ともに、普段の具体的な行動を見て評価する点は同じですが、前者では「〜ができるかどうか」、後者では「〜をしていたか」が判断の基準になります。

目に見えない潜在能力を想像して評価する「職務遂行能力」より、実際の行動に対して評価する「コンピテンシー」のほうが、評価者も評価しやすく、評価される側にとっても納得感があるようです。

「コンピテンシーマネジメント」が注目されている理由

「職務遂行能力」評価の課題が顕在化

「コンピテンシーマネジント」が注目されている背景には、多くの日本の企業が「能力主義」を目指しているにもかかわらず、結果的に年功序列に陥っているという課題があるといえます。年功序列による昇給制度では個人の能力と成果に乖離が起こりやすく、「成果をあげていないのに自分より給料が高い」「実績をあげても正当に評価されない」と感じる従業員が増えれば、働く意欲を失くし、人材の損失や業績低下を招く原因になります。

「成果主義」の浸透

近年、日本でも欧米企業のように「成果主義」を採用する企業が増え、年齢やキャリアに関係なくよい結果を出した人を評価する考え方が浸透してきました。「成果主義」では、その人がどのようなプロセスを踏んで成果を出すにいたったのかに焦点を当てて人事考課がおこなわれるため、「コンビテンシー評価」の考え方や目的と合致します。さらに、経験や知識が豊富で能力的に十分であっても成果が出せていない人には、成果をあげている人の行動特性を具体的に示して評価を伝え、行動変容につなげることが可能です。

「コンピテンシー」のモデル化

「コンピテンシーマネジメント」を導入するため必要なこと、導入の手順を簡単に紹介します。

企業や組織の特性に合わせて「コンピテンシー」をモデル化する

「コンピテンシー」は、企業においてハイパフォーマンスを生み出す概念であるため、どの企業にも共通する指標やマニュアルが存在するわけではありません。人事評価に「コンピテンシーマネジメント」を導入し、活用していくためには、まず「モデル化」というプロセスが必要です。

同じ企業内でも業種や職種、階級によって求められる役割や成果は異なるため、対象となる部署ごとにコンピテンシーのモデルを設定することが大切です。

「コンピテンシーのモデル化」の進め方

まずはモデル化したい単位(組織・職種など)のなかでハイパフォーマーを選び出し、その人たちにどんな考え方でどのような行動をして成果を出したのかをヒアリングします。次に、そのヒアリング結果からほかの従業員と異なる思考や行動特性を抽出し、目標となる人物像(モデル)を具体的に設定します。そして、設定したモデルを基準にして、従業員を評価する際の指標となる評価項目を設計していきます。

ちなみに、モデル化の手順や基準については、企業内で独自におこなうケースもあれば、外部のコンサルティング会社に依頼するケースもあるようです。ハイパフォーマーへヒアリングする際の観点や「コンピテンシーのモデル化」の基準を決めるうえで参考になるものをいくつかご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

◇WHOグローバル・コンピテンシー・モデル/一般社団法人 日本国際保健医療学会 国際保健用語集より

i コンピテンシ ディクショナリ/IPA(情報処理推進機構)
コンピテンシー評価モデル集【改訂増補第5版】/公益財団法人日本生産性本部
コンピテンシー・ディクショナリー/ライル・M. スペンサー、 シグネ・M. スペンサー

まとめ

成果を生み出す「行動特性」に注目した「コンピテンシーマネジメント」は、業績アップをもたらすだけでなく、人事考課という点においても、評価する人・評価される人双方にとってメリットが大きいといえそうです。まずは公表されているさまざまなフレームを参考に、自組織のハイパフォーマーの分析をしてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

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