労働者派遣法②|わかりやすく解説「派遣法」の歴史【後編2008〜2020】

2020.11.30

労働者派遣法②|わかりやすく解説「派遣法」の歴史【後編2008〜2020】

2020年4月1日、改正派遣法が施行されました。最新の改正では、政府が推進する「働き方改革」の流れをくむ「同一労働同一賃金」が大きなテーマになっています。
派遣法のなりたちから2004年まで続く規制緩和の流れをひもといた【前編】に続き、【後編】では、2008年の世界同時不況に端を発した一連の規制強化時代から現在までの歴史をご紹介します。

2008年〜 「派遣切り」「雇止め」「違法行為」が社会問題化

2007年頃から話題になり始めた「ワーキングプア」や「ネットカフェ難民」。そして2008年に世界を襲ったリーマン・ショックの影響による「派遣切り」「雇止め」。規制緩和が進められてきた派遣法ですが、派遣社員に関する企業の対応が社会問題として取り上げられるようになりました。

クローズアップされた派遣の問題点

この時代に問題視された違法派遣や派遣への対応について見ていきましょう。

違法派遣や日雇い派遣

批判の的となったのは、派遣労働が禁止されている業務への派遣や、派遣社員を受け入れた企業が自社ではなく別の企業にその派遣社員を送って業務に就かせる二重派遣などの違法派遣です。そして、ワーキングプアやネットカフェ難民を生む温床とされた日雇い派遣でした。

派遣切りや雇止め

また、リーマン・ショックによって海外市場での日本製品の需要減というあおりを受けた製造業を中心に、派遣切りや雇止めが発生しました。2008年の年末には「年越し派遣村」が大きく報道されるなど、非正規雇用や派遣に関わるキーワードが大きくクローズアップされ、社会問題として議論されるようになります。

派遣法の運用に関する数々の施策を実施

そのため政府では、派遣法解釈の歪曲や拡大を是正、また派遣契約の中途解除に適切に対処し労働者保護を図るための指針を次々と打ち出し、実施しました。

2008年〜2010年にかけて示された省令・指針

2008年 ◇日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針
2009年 ◇派遣元・派遣先指針の改正
◇一般労働者派遣事業の許可基準の見直し
◇労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準
◇上記基準に関する疑義応答集1・2
2010年 ◇期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応(専門26業務派遣適正化プラン)

例えば、2009年の「派遣元・派遣先指針の改正」では、前年から社会問題化していた派遣社員の解雇、雇止め等の問題に対処するため、「派遣契約の中途解除に当たって、派遣元事業主は、まず休業等により雇用を維持するとともに、休業手当の支払い等の責任を果たすこと」などの指針が示されました。

2012年〜 規制強化、派遣労働者の権利が保護される時代

1986年の施行以来、一貫して規制緩和の方向を維持してきた派遣法ですが、2008年頃からの問題提起を受け、初めて規制強化へとその方向を転換します。

名称の変更を伴う大幅な改正。「整備」から「保護」へ

2012年の改正では、派遣法の正式名称が、
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」へと変更されました。
これにより労働者の権利保護や雇用の安定が目的として明確化され、さまざまな規制を強化する方針が打ち出されました。
おもな改正内容を3つのポイントに分けて紹介します。

1)日雇い派遣が原則禁止に

非常に短い期間の雇用・就業形態のため、派遣元・派遣先の双方で必要な雇用管理がされにくく、労働災害の発生にもつながっていたことから、「雇用期間が30日以内の日雇い派遣」は原則禁止となりました。
ただし、ソフトウェア開発や機械設計、事務用機器操作、通訳・翻訳・速記など専門的な知識・技術が求められ、短期的な雇用であっても労働者に不利益の生じない業務などについては禁止の例外となっています。

2)グループ企業派遣の8割規制

人件費の削減などを目的に派遣子会社を作り、派遣先の大半を同一グループ内の企業が占めるようなケースが制限されるようになりました。

3)離職後1年以内の受け入れ禁止

退職後1年間は、直接雇用で働いていた従業員を派遣社員として受け入れることが禁止されました。同じ労働者の雇用形態を直接雇用から派遣へと切り替えることで、人件費の削減を図るケースを阻止することが目的です。

2015年〜 派遣事業の健全化と安定雇用推進の時代

規制強化へとシフトした2012年の改正から3年。派遣労働者の保護や雇用の安定、キャリアアップの推進、労働者と雇用者双方にわかりやすい制度づくりなどを目的として、新たな改正が行われました。

5つの改正ポイント

2015年改正派遣法には、「派遣労働という働き方、及びその利用は、臨時的・一時的なものであることを原則とする」という考え方のもと、常用代替(正社員が行う業務を派遣社員が行う)を防止するとともに、「派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図る」という指標が掲げられました。
それらを実現するための具体的な改正内容を、5つのポイントに絞って紹介します。

1)「労働契約の申込みみなし制度」

派遣労働者を禁止業務に従事させるなどの違法な派遣労働があった場合、それが発生した時点で、派遣先企業が派遣労働者に対して直接雇用の申し込みをしたとみなす制度です。派遣労働者が承諾すれば、労働契約が成立します。違法派遣の是正や、派遣労働者の雇用の安定を目的としています。

2)すべての労働者派遣事業を「許可制」に

これまで、企業が派遣事業を始める際には「届出制」と「許可制」がありました。しかし、派遣業界の健全化を目的として、すべてが許可制とされました。許可されるにはキャリア形成支援制度などさまざまな基準を満たすことが必要です。

3)派遣期間の上限を原則一律3年に

これまで派遣期間については、「政令26業務(2012年より28業務)」は期間制限がなく、それ以外の業務は最長3年とされていました。しかし、

  • 専門28業種がほかの業務と比べて専門性が明らかに高いとはいえなくなった
  • 職種によって雇用期間が異なるので運用が煩雑
  • 雇用期間制限がないと、半永久的に派遣社員として雇用できてしまう

などの理由からその区分が撤廃され、「事業所単位」(原則3年。延長可能)と、「個人単位」(3年。延長不可)、2つの期間制限が適用されることになりました。

4)派遣社員の雇用安定措置

派遣社員の雇用安定化を目的として、派遣元は派遣終了後の雇用を継続させるために、以下のような措置を講じることが必要とされます。

◇派遣先への直接雇用の依頼
◇新たな派遣先の提供
◇派遣元での無期雇用

5)派遣社員のキャリア形成支援の義務化

派遣社員にとっての課題であったキャリア形成と雇用の安定化を図るため、それまで規定のなかった教育や情報提供について派遣元事業主に以下のような責務が示されました。

◇入職時の教育訓練を含めた段階的かつ体系的な教育訓練の実施
◇希望する全派遣労働者に対するキャリア・コンサルティングの実施

同一の事業所で1年以上継続して受け入れているなど、一定の要件を満たす派遣労働者に対して直接雇用や正社員募集情報の提供を促す内容も盛り込まれています。

2020年〜 働き方改革の推進、公正な待遇の実現に向けて

「1億総活躍社会」の実現を目指し、2018年には「働き方改革関連法」が成立しました。労働基準法、労働契約法、パートタイム・有期雇用労働法などとともに、派遣法も改正され、2020年4月1日から施行されています(中小企業のパート・有期雇用労働法の施行は、2021年4月1日~)。
政府が推進する「働き方改革」の趣旨は、大きく分けて2つのポイントがあります。
ひとつは「労働時間法制の見直し」。そしてもうひとつが、派遣法の改正に大きく関わる「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」です。

派遣法改正の目的は「同一労働同一賃金」の実現

2020年4月に施行された派遣法改正の目的は、派遣労働者の不合理な待遇差を解消すること(いわゆる「同一労働同一賃金」の実現)です。
不合理な待遇差の解消を実現するための重要な考え方は、「均等待遇」と「均衡待遇」の2つです。なお、「待遇」には、賃金のほかに、利用できる福利厚生施設や教育訓練の機会なども含まれます

改正派遣法2つのポイント

では、「同一労働同一賃金」の実現を目的として具体的にどのような改正がなされたのでしょうか。派遣労働者の待遇の決め方について政府は2つの指針を示しています。

1)公正な待遇確保のための2種の待遇決定方式

派遣労働者の待遇について、派遣元は以下のいずれかの方式を選択し、賃金を決定することが義務づけられました。

【派遣先均等・均衡方式】派遣先の通常の労働者と均等・均衡するように賃金を決定
派遣先企業の通常の労働者と比較して派遣社員の待遇を決定する方法。派遣先企業は派遣元企業に従業員の待遇に関しての情報を提供することが義務づけられました。

【労使協定方式】一定の要件を満たす派遣会社の労使協定で賃金を決定
派遣会社の労使協定で賃金を決める方法。その際、一般の労働者の平均的な賃金と比較して同等以上の賃金となるように制定しなければなりません。

2)派遣社員の待遇に関する説明義務の強化

派遣元は派遣労働者に対し、「派遣労働者の雇い入れ時」「派遣時」「派遣労働者から求めがあった場合」、それぞれのタイミングで書面や口頭などにより待遇に関する情報を明示することが求められます。

まとめ

派遣法の歴史【後編】では、2008年頃から2020年最新派遣法にいたる沿革を振り返りました。【前編】も含めた、1986年の派遣法施行から30余年、数次にわたる改正の大きな流れは、<業態の整備→規制緩和→規制強化>となっています。

一見「難しい」とも捉えられがちな派遣法ですが、その背景には労働者の保護、不当評価の是正などがあります。派遣法に関わる内容で不明な点がありましたら、いつでもリクルートスタッフィングにお問い合わせください。

派遣というビジネスのなりたちから1986年の派遣法施行時の時代背景、その後2004年にかけての規制緩和の流れについては、以下の記事をご覧ください。

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